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どるとるの部屋


[411] 君の全ては僕の全て
詩人:どるとる [投票][編集]


彼女の世界の全てはこの小さな窓辺から見えるだけの世界
その真四角の世界だけだった
彼女は病気で起き上がることさえできなかった
だから時々僕が訪ねていき彼女にいろいろな話をする
彼女の世界の底辺は彼女曰わく僕の話す外の世界の話だった
彼女は言った
あなたの話は下手だけど不思議にどこか素晴らしいわねと
彼女と外界との世界をつなぐものはこの窓辺と僕の話だけ

なんて悲しいんだ
だけれど僕は口にはしない
いつも笑ってる彼女が悲しむ顔なんか見たくないから

彼女をとある少女と言うことは僕はしたくないんだ
みんなとある人間だろう みんないつかそうなるよ 忘れられるのが定めらしいから

この窓辺から見える青空 夕空 雨空
冬の日の雪
そして僕が持ち寄る写真や絵葉書
彼女はそれで喜んでいる
旅してる気分ねと言う
その言葉が僕は一番の救いで一番の痛いところで

やがて、なんでもない晴れの日に彼女は空に旅立った
あれほど行きたかった空に
僕は泣かなかった
彼女が死んではじめて夢を叶えたと思いたかったから
君よ
空の景色はどうですか?

幸せは空の上にもありますように
彼女に翼を与えてあげてください
生きてるあいだになせなかった喜びを当たり前なほどに感じさせてあげて

少女はそれでも外界に憧れはしなかった
あの窓辺とこの僕の話だけが彼女の世界だったから
こんなにも世界は広いのに彼女の世界は小さな窓辺とイメージだけの作り物の世界だった
窓辺の景色をのぞけば

それでも外界に夢を描き僕の話と窓辺の世界だけを私の全てだと言った彼女の言葉を今も強く信じてる

僕は忘れないよ
君と過ごした日々を
今は触れられなくても風みたいに去っても大事なものは変わらず大事なまま僕の心に在るんだ

あの日、君と交わした口づけは切なく優しい愛の味
それこそが君の全てなんだね。

2009/10/31 (Sat)

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