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どるとるの部屋


[5854] 名前のない魚
詩人:どるとる [投票][得票][編集]


夜の闇を 泳ぐ魚になって
僕は白い泡を吐き出すよ
少し狭い路地をくぐり抜けたら
途端になぜかわけもなく切なくなる
思い出してしまったのかな 今日の日の痛み

見えない何かをべつの何かに重ねて見ているよ
聞こえない何かをべつの何かに置き換えて聞いている
見えるものや聞こえるものだけがすべてであるはずのこの世界で唯一光るものを僕は知っている

夢の終わりか 意識を取り戻して
僕は朝の扉を開けるよ
一杯の珈琲を飲み干したら
なんとなく幸せは手のひらの上に
思い出すまえに 忘れてしまえ いつか抱いた傷跡

ふれられぬ何かをつかむのは心の役目
「無いもの」を「ある」と思うのはそう感じるから
まるで目も耳もない魚のよう 人の心の小さな揺らぎの中でそっと息づく命 闇をやさしく照らす光

そろり そろり 意識と無意識の境を行き交う 名前のない魚は今日もあなたに
見えない景色や聞こえない音色を届けてくれる

見えない何かをべつの何かに重ねて見ているよ
聞こえない何かをべつの何かに置き換えて聞いている
見えるものや聞こえるものだけがすべてであるはずのこの世界で唯一光るものを僕は知っている

だから、この世界に無いものほど大切なものはない。

2014/10/01 (Wed)

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