詩人:ごんてつ | [投票][編集] |
いったいどれほどの時が経ったのだろう
作業に没頭する主を見ながら 私はふと先ほどのヤマアラシが気になり、彼の姿を探した
彼は先ほどの場所から動いていなかった
彼は死んでいたのだ
なぜ君は死んでしまったのだ
棘を取られたその時かい?
それとも、君がヤマアラシを終わらしたと感じたその時かい?
君は、どうしてこの世を去ってしまったのだ
(地の底よりかすかに呟くような声がする)
いつまでかき混ぜるのだろう
機械が動きを停めるまで
棘が溶けて無くなるまで
それとも、人が足掻きを止めるまで
(地の底の便りより 抜粋)
詩人:ごんてつ | [投票][編集] |
そこは“工場”と呼ばれていた。
便宜上の名前、誰にとっても都合のいい名前
いつ造られたのか? 何の目的で造られたのか? 誰に造られたのか?
解らない いや、解らなくてもいい
ただ、そこに“工場”が有るという事実のみ存在する
中には、 主(ぬし) が居り、私の来訪を心から歓迎し、手厚くもてなしてくれた
彼もまた工場と同じ、いや 一部なのだろう
主は言った
「ここに一匹のヤマアラシがいる」
「先ずはこいつの棘を取る」
無造作にのばされたその手には無数の棘が捕まれており、
ヤマアラシの背中からは、途中から綺麗にその先端が失われていた
あまりの突然の出来事と、その切り口の見事さから私は、ひょっとして棘は折れたのではなく、自ら切り離したのではないかと思った。
「さて」
「この棘を今からこの釜に入れる」
私は釜を覗き込んだ
その中には、飯粒をすりつぶして出来た糊のような物が撹拌されていた
「ほれ、こうしてこのように」
カラカラと乾いた音を立てて棘が釜に吸い込まれて行く
棘と糊状の物が程良く混ざり合ったとき 主は言った
「これで安全になったろう」
安全?
私は眉をひそめ、訝しげに釜を覗き込む
どこが安全だというのか
なにも変わっていないではないか
主は誇らしげに、自分の成果を見つめている
その姿には、不安や恐れなど微塵も感じさせない
むしろ、微笑みで祝福してやりたい気持ちにさえなる
だが おかしい 間違っている
どこも変わってはいないのに
釜の中で棘が囁く
「もう僕たち安全になったの?」
「もう僕たち刺さらないの?」
「今はね」
「誰かが興味本位で手を触れるその時までは」