詩人:こうもり | [投票][編集] |
ひとりぼっちでおくびょうなこうもりは
さみしくてさみしくてしようがありませんでした
あるひ、とりたちのむれをみつけると
ゆうきをだしていいました
あのね、ぼくはみんなとおんなじはねをもっているよ
なかまにいれておくれよ
とりたちはいいました
たしかにきみには、ぼくらとおなじようにはねがある
けれど、きみはけもののようなはなをしている
きみはけもののなかまだろ
そこで、さみしいこうもりはけものたちのむれにむかっていいました
あのさ、ぼくにはみんなとおんなじようなはながあるんだ
なかまにいれておくれよ
けものたちはいいました
なるほど、おまえはおれたちとおなじようなはなをしている
だけど、おまえにはとりたちのようなはねがある
おまえはとりのなかまだろ
結局、僕は
くたびれた臆病を大事に抱えて、ただだらしなく生き延びている
夢にも現実にもずっと怯えて、ただ俯いてとぼとぼと歩いている
どうしようもなく、しょうもない自分が、
夜更けにごろんと寝転がって
詩を書いている
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『どうなりたいわけじゃない
どうなることも望んでない
一緒にいると、いつか別れないといけなくなる
繋いでいると、いつか離さないといけなくなる
あいだを空けて
ときどき話したり、笑ったり、泣いたり
そうやって、同じリズムで息をついて
同じテンポでどこかを歩いて
そんなふうに流れていれば
きっといつまでも
こうしていられると思う』
…んな訳、ないか!?
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古典物理学に拠れば
Aの結果はBである
量子力学に拠れば
Aの結果はBかもしれないしCかもしれない
僕の中の君に拠れば
僕は君とずっといるはずである
僕の前の君に寄れば
僕は君にキスをしたかもしれないし…しなかったかもしれない…
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切れた糸は
なかなか
つながらなくて
どんなにきつく
縒(よ)り合わせても
ふとため息しただけで
また切れてしまう
切れた糸は
なかなか
もとに戻らなくて
どんなに強く
気を張ろうとしても
ふと俯いただけで
また切れてしまう
どうしようもなくて
切れた糸の
縮れた先端を
ただ見つめている
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多くの人は詩をつくらない
なぜならその人自身が詩そのものだから
詩になれなかったぼくらは
ぼくらのいない世界を眺めながら
ときにはじっと観察しながら
詩そのものである人々のことを
ひとつずつ文字に起こしていくんだ
それはとても孤独な作業で
それをしたからといって何かが変わるわけでもない作業で
無意味だとは知りながらつい一字一字に心を費やしてしまい
そのうえ出来た詩を誰にも見せられなくて机にしまってしまい
たいして利得のない反復作業を
詩になれなかったぼくらは続けてばかりいる
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その瞬間から
僕は計画を練る
ベストなタイミングを見計らう
用意周到な罠を張る
一足先に外に出る
壁にもたれて煙草をふかす
気配とともに5、6歩あるき出す
そうやって何気ない風を装う
話し掛けられるまで我慢する
「お疲れさまです」と挨拶を交わす
今夜の予定が詰まっていることを知る
そうして僕の計画は潰える
…
……
明日もがんばる
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僕はただ
恋をしているだけだと思っていた
あの公園の
石造りのベンチに座り
ただ恋をしているだけだと思っていた
時はすでに
僕らの間を引き裂いていたのに
僕はただ
恋をしているだけだと思っていた
ただ恋を
していればよいのだと
勘違いしていたんだ
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君は指も脛(すね)も傷だらけ
昼も夜も働いてなきゃいけなくて
自分の皮膚を守る暇もない
それを君は鈍臭いとあだなする
僕が心配なのは君の心
傷ついていないか心配なのは心の皮膚
僕が守ってあげなくちゃ
でも僕自身が「鋭利な刃物」だとしたら
エイリナハモノデナイト、ナゼイイキレル?
僕が近づくたびに君の皮膚が破れているとしたら
僕が触れるたびに血だらけになっているとしたら
オマエガソレニキヅイテイナイダケダ
「鋭利な刃物」かもしれない僕は
必死に刃先を壁に打ちつける
刃先がボロボロになるまで鈍磨(どんま)させる
自分を守ることもできなくなるけど
何も切れなくなるまで鈍磨させる
そうすればもう一度
君に触れられるかな
君は傷つかないかな
無用の長物と化した古包丁のように捨てられる
…のかな
オマエハドッチニシロステラレルサ
捨てないで
たとえ切れなくても
たとえ役に立てなくても
せめて僕との記憶のよすがとして
台所の隅の引き出しの奥に
そっと置いておいてほしいよ
僕はぴくりとも動かずじっとして
君の家事の物音だけに耳を澄まして
何年も何年もひっそりと息をしながら錆びていくから
どうかお願い
捨てないで
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僕は君のような人を探そうと思う
僕は君と結ばれるはずのない定めだから
僕は君のような人を探そうと思う
君のような人は
君しかいないんじゃないかなんてことは
大丈夫
意識的に思わないようにするから
僕は君のような人を探そうと思う
僕は君と出会って答えを見つけたけれど
それは君であってはいけないのだから
僕は君のような人を探そうと思う
どうすればよいのか
わからなくて
ただ君だけが世界にいるのだけれど
大丈夫
意識的に距離を置くつもりだから
僕は君のような人を探そうと思う
僕が一方的に想っていて
君に迷惑がかかるといけないから
僕は君のような人を探そうと思う
君のような人が
君であったら
なんてことは
大丈夫
夢にも思わないように心掛けるから
大丈夫
大丈夫だから…
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急いで飛び乗った夜間バスは
週末の酒気と倦怠が渦巻くように込み合って
僕は会釈を言い訳に席を占めた
絡め損ねて所在なげな君の指は
別れの合図のようにぴんと伸びて
僕はただ笑って目を背けるしかなかった
闇を貫く都市高速を
重たく唸(うな)るバスの中で
僕を包んで離さない
君の残り香
もう終わったはずなのに
僕を包んで離さない
君の残り香