詩人:まとりょ〜鹿 | [投票][編集] |
『生きとし生ける者
その全てが幸せだといいんですがねぇ〜』
ブカブカで台詞とは不釣り合いな格好した男は笑う。
力の無い目元の瞳の奥では
確実に私の心を見透かして
…ほら、泣けてきちゃうじゃない。小さい体一つ、窮屈な強がり。
銀色の星屑が貴方のフワフワ髪を輝かせるから
ついつい抱きついて口元緩んだ。
易々と夢は語らず
媚びる事もなければ
いつも誰かを救い出しては
我関せずと優しく微笑む貴方。
甘えついでに言っちゃっていいですか?
好き。
好き。
私、貴方が大好きなんです。
『んな事ぁ分かってますから。』なんて
また星空眺める遠い視線。
私だって分かってるんだよ。
貴方は誰かのモノでなく、夢のモノ。
独り占めなんか出来やしないの。
侍一匹。
それが私の見た背中。
夢一つ。
貴方は戦い続けてゆく。
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そりゃ尋常じゃないものよ。隣の家の換気扇。
部屋中漂うマッタリとしたウマミ。
なるべくなら貧乏を
体験するべきとは言うけど
私たちは育ち盛りなのよ、ねぇ お母さん。
隣が肉なら、我が家の魚の匂いが勝るのよって
変な所で対抗意識を燃やさないで
3年間、豚肉を牛肉と勘違いして笑われた私。
だから、ほらっ、もう限界なのよ。
月末になったら肉屋
お父さんにお願いしようよ。
月末になったら肉屋
スーパーのタッパーに入れられたのは嫌なの。
月末になったら肉屋
合い挽きとかって逢い引きに似た異種混合はやめて。
月末になったら肉屋
オージーとかニュージーともお別れして。
月末になったら肉屋
滴れ落ちる脂って一体どんなのよ?
大人になったら間違いなく私は
父のような定収入の人とは結婚しないわ。
間違いなく私は、肉屋さんと恋したい。
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1日の中でも12時をメインにして
最高潮の女としての歓びを君にあげる。
男として成熟する時期を見誤りすぎて
時に空回り、君に汚い部分を曝け出した日。
そして何よりも
愛される事ばかりに快感を覚えた日々。
全て責任を負わして
僕は君に手錠と足枷をかけたまま幸せだと言った。
針が真上を指した時、
君の笑顔の魔法で僕は君に架した全てを開放出来る。
君よ。生まれてきてありがとう。僕はもう怖くない。
君が大人になるのなら、僕はもっと大人になる。
さぁ、ケーキに火を着けよう。
あるがままの君が今日のドレスコードよりも華やかに見える。
君が早足で大人に向かうなら、僕も急いでロックを外して追いかけてゆくよ。
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お前が嫁いでゆくその前に
もう一度ちゃんとお前の顔を見ていいか?
産声を上げて
ずっと母ちゃんにしがみついてたお前が
今は手を離れ巣立ってゆく
俺はお前に何度か
手を挙げて叱った事もあった。
お前が俺を
冷たくあしらって避けた時もあった。
二十数年の月日なんか
あっという間にこの日の為に過ぎ去った。
最近目が霞むようになったな…。
不思議と一瞬で、お前の晴れ姿が写らなくなってきた。
頼むから
本当にお世話になりました。とか
そんな小っ恥ずかしい手紙なんかくれるな。
頼むから
これからの俺らの事を心配するな。
自分達の暮らしの為に、経験を積んでゆけ。
頼むから
誰よりも幸せになってくれ。
俺らはお前の親としては、まだ未完成だったのかも知れない。
そう世間からも認められる立派な母親になってくれ。
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多種多様なナマモノ達が共生している世の中だから
こうなる事は仕方が無いのさ。
君は毒々しい尾を鋭く震わせながら笑ってた。
生と死。
このサイクルに何ら疑問を抱く事なく、君は沢山の命を絶った。
天の神は
君を「いけない」と叱った。
そして命の大切さを説いた。
しかし君は神を嘲笑った。
「では何故私の尾には殺めるためだけの猛毒の刃をよこしたの?」かと
神は重そうな瞼を閉じたまま、額に手を当て嘆いた。
そして神は君を深い深い井戸の中に突き落とした。
君は叫んだ。
「私は此処に居る!早く私に手を差し伸べて」と…
君がナマモノと呼ぶ、生物達は誰一人手を差し伸べてはくれなかった。
「アイツは俺らとは違う。猛毒だらけの刃にズタズタに裂かれるのはごめんだ。」
干からびた君は灼熱の太陽に身を焦がされ
天に浮かんだ今でも救いを乞うた。
S字に曲がった光の線
尖った尾の先を赤く鮮やかに照らしながら…。
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熟していない果実を
かじりました。
実は堅くて
酸っぱさだけが
口の中に広がってゆきました
何故だか
後味がとても苦い。
私は複雑な気持ちで
種だけを取り除いてみました。
大地にどっしりとたくましい根を張って
大きく育てる為の種なのに、
未熟な果実の種は
まるで私達の素肌のように
白く、そして柔らかかった。
熟せば熟す程
トロトロで甘い
そして種は色褪せ
石のように堅くなってゆく…。
熟すまで待てなかった私は、複雑な気持ちで
種と実を土に帰してきました。
禁断の果実は
もしかしたら
その事だったのだろうかとか
色々考えたら涙が出てきました。
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明日私はこの家を出ます。
『他に夕飯何食べたいんだ?』
テーブルには溢れかえるような父の料理。
父はいつもより少し優しくて
それが余計切なくて泣けてきた。
寂しそうに父は酒を飲んで
昔を懐かしむように話していた。
『何も明日から私が変わる訳じゃないのよ』
私は父に笑いかけた。
『いや、変わっちまうんだよ。
お前は俺の娘から、母親になるんだから…。』
庭に咲いた夕顔と
伸びきった蔓。
時間は誰にでも早く流れた。
ヨチヨチ歩きの
泣き虫だった末っ子の私は
明日から妻になり、そして母親になります。
照れて父は私に挨拶なんてさせてくれなかったけど
玄関を出る時に言わせてね。
『行ってきます。ありがとう。』
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視界や音すら
まともに感じとる事すら出来ない孤独。
まるでそこだけ止まって映った。
でも確かに今ここに
俺は包まれて居るんだな。
地鳴りやエンジンの鼓動がいつもとは違う。
当たり前なんだろうけど、今確かに俺は此処に居る。
かつて見る事すら珍しい“こっちの世界”
俺の体を絹がまとわりつくように暖かくて、
スローモーションで光が駆け抜けてゆく。
なぁ?お前ら、聞かせてくれよ。
あのストーリーの続きをよ。
今俺が感じているのが正しいストーリーの続きなら、
またこれは伝説となり、俺も溶けちまうんかなぁ?
なぁ?教えてくれよ。
そっちの世界も楽しいんか?
太陽と月と雲すらも混じり合ったその色は本当に綺麗なんかな?
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女の涙はズルいよな。
言われるのが痛くて、もう泣くのを止めた。
お前もその辺の女と変わらない。
特別って言われたくって、私は姿を変えた。
つっぱねて
意地張って
一人でもちゃんとやれるんだって
でも私に残ったのは
過去の嫌悪と
心の孤独。
もう泣いてもいいですか?
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忘れられないってだけじゃない。
忘れたくないって気持ちが
こうして俺を閉じ込めたままにするんだ。
『アイツ結婚したんだってさ。』
風の便りで聞いた
まさに嵐のようにさざめいた心。
これだから女ってヤツは何て
俺はこれ以上虚しくなる事は言えないや。
最近さ、お前によく似た無垢な顔して笑う
子供を見たら背中がヒヤッとするよ。
現実ってヤツはいつでも容赦なくってさ
こんな風に俺の中で長年くすぶった。
幸せそうに微笑む親子の顔に
泣かせた俺に泣いたお前。
もう戻る事のないお前との時間。
なんだ。
もう出る物すら
何にもないや。