詩人:剛田奇作 | [投票][得票][編集] |
あれは確か小学校、低学年の私
大嫌いな 計算ドリルをテレビの裏側に放り投げたことが、はじまりだった
テレビは部屋の四つ角を塞ぐような形でおいてあったから
落としたら二度と子供の私には取れなかった
計算ドリルは提出日まで落ちたまま、答の欄は空白のまま…
いつばれるかと怯えていたが、なぜか先生には怒られなかった
けれど私が怖かったのは、先生でもなく
提出日でもなく
計算ドリルでもなく
大きなテレビ、
埃がかったブラウン管の裏、
三角形の黒い穴
そのものが、怖かった
ブラウン管の黒い口は
いろんなものを飲み込んだ
給食でどうしても食べ切れなかったまずいパン
ユキちゃんちから黙って持ってきたピアスのシール
どうしても完成できなかったマスコットの宇宙人
テレビはもうとっくに壊れてしまって、新しいものになったけれど
行き場を失った彼らが、
いまだに私を
あのブラウン管裏の暗闇で待っている
今なお、私の胸の中に、ぽっかりと大きな黒い口を開けて
ものが投げ込まれるのを
待っている