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剛田奇作の部屋


[137] 黒い口
詩人:剛田奇作 [投票][得票][編集]

あれは確か小学校、低学年の私


大嫌いな 計算ドリルをテレビの裏側に放り投げたことが、はじまりだった


テレビは部屋の四つ角を塞ぐような形でおいてあったから


落としたら二度と子供の私には取れなかった


計算ドリルは提出日まで落ちたまま、答の欄は空白のまま…


いつばれるかと怯えていたが、なぜか先生には怒られなかった


けれど私が怖かったのは、先生でもなく
提出日でもなく
計算ドリルでもなく


大きなテレビ、
埃がかったブラウン管の裏、

三角形の黒い穴


そのものが、怖かった


ブラウン管の黒い口は
いろんなものを飲み込んだ


給食でどうしても食べ切れなかったまずいパン


ユキちゃんちから黙って持ってきたピアスのシール


どうしても完成できなかったマスコットの宇宙人


テレビはもうとっくに壊れてしまって、新しいものになったけれど


行き場を失った彼らが、

いまだに私を
あのブラウン管裏の暗闇で待っている


今なお、私の胸の中に、ぽっかりと大きな黒い口を開けて


ものが投げ込まれるのを
待っている






2008/12/31 (Wed)

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