詩人:剛田奇作 | [投票][得票][編集] |
私は彼ほど、美しく
感情のない瞳を
見たことが無かった
人間の罪の全てを見透かしていながら、
無邪気にも、ただ浮かんでいる、あの満月のように
ビョンタクは、古いレンタルビデオに住み着くといわれる妖精だ
私が彼を見たのは、数年前、ある無名なフランス映画を見ていた時だ
男の日常を、延々と辿っているような
BGMのない映画
見ている途中で寝てしまい
目覚めたのは午前4時
無性に蒸し暑い夏の夜で
キッチンへ飲み物を取りに行った
ふと、
暗いキッチンの冷蔵庫が開いていて、中の光がもれている
目を凝らすと
一人の男が冷蔵庫の中を見ている
私はすぐに「ビョンタクだな」と理解した
扉を閉めて振り返った彼の左手にはペプシの缶が握られていた
髪の毛はボサボサで肩くらいの長さ
肌は異常に白く
裸にボロボロの腰布を一枚巻いただけの出で立ちだ
長身で、痩せてはいないが骨張った身体
少し驚いたような、瞳が
暗闇に生々しく潤んでいた
私はなぜか無性に彼を犯したい衝動に駆られた
黙って彼の手を引くと着いて来たので
そのままリビングに連れて行き
青白い砂嵐がチカチカするテレビの前で事に及んだ
それから毎晩そのビデオを流し
午前4時に彼を犯した
ある日、古い友人にばったり会い お茶をした
彼女は、コーヒーを前に
あんた、ビョンタクに取り付かれてるわね
そのやつれ具合だともう一週間でしょ
早くビデオ返却しなさい
と言われ
私は彼女に従った
そしてもう、
二度とビョンタクに会う事は無かった
いくら、あのフランス映画を流しペプシを用意していても