詩人:剛田奇作 | [投票][得票][編集] |
世界中の薬局から
山のように包帯と薬を買ってくる
もし君が手首を切るなら
世界一の音楽家をよんで、世界一美しくて楽しい旋律を聞かせる
終わることなく君のそばで、今日あったことや、見た景色のことを
永遠に話し続ける
二度と嫌なこと、思い出す時間が訪れないように
君が、また
氷のように冷たい闇に襲われそうになったら
僕の熱い腕で 力の限り抱きしめるから
君が咳き込んでも、嫌がっても
もう
離してやることはできないさ
もしまた、君が自分を傷つけるなら
君が二度とナイフに触れなくて良いように
自衛隊を総動員して、日本中から刃物を失くしてしまおう
君がもし もし
また
手首を切ったら
僕は
君の手首を 力一杯握りしめる
真っ赤な 傷口の上から
直接
包帯も巻かずに
君の手首の骨が折れそうなほど
この炎のように熱い
熱い てのひらで
何時間も握りづづける
君が眠ってしまうまで
君の血も、悲しみも、もう
一滴だって、流れないように
君が 二度と この悲しい傷跡を
見ることがないように
君の代わりに、傷が
治って行くのを見つめ続ける
僕も、みんなも、空も、鳥も、月も、太陽も、悲しくて
あまりに悲しくて
泣くことしかできない
悲しいこと 嫌なこと
君の中からなくしてしまうため
空はどこまでも宇宙につながって
悲しみを大気圏外に見送るよ
太陽は精一杯照って 闇を包んで 無くそうとしているよ
鳥は、歌のうまい子も下手な子も、みんな精一杯 君に歌を届けるよ
月は、暗闇で二度と君が、怖さに潰されないように
出来るだけ、オレンジに明るく光って
君が寝てしまうまで、暗闇と闘うよ
僕はなんにも特技がないけど
世界中の包帯と、薬と、君の涙をふくハンカチを山盛り担いで
ずっと変な顔をしてそばにいる(君が吹き出すかもしれないから)
君のしたいこと、一緒に考えよう
君の好きなものの、話をしよう
もちろん悲しい傷が、治るまで ずっと
君の
赤い手首を握りしめたまま