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[12] 海の花 rewrite
詩人:min [投票][編集]

海を首肯するように
いっそこの首を
手折ってくれたら、とおもう
午睡する傍らの君は今にも冷やし飴に溶け落ちそうで
露台の木目はいつだって不規則なゆらぎに満ちていて
君はまだ
呼吸と寝返りを
繰り返している
壜を握り締めていた指先の水滴は
あたしの喉へと滑り
逆さまの海が映り込む


どこまで歩いても
君のくるぶしだけを
掠め取るような
浅い、あさい
粘性の波に
首が呑まれる、のまれる
(四十分おきに大きな波が鈍色のうねりでもって、くる、からね)
そのあなうらで
踏みつけてくれたら
もうどこへも行かない
閉じた瞼に
木目の輪郭がしたり顔をする


温んだ壜を逆さまにして
露台から乗り出した半身を
日差しへかざす
垂直に砂を貫く琥珀のそれが
君の午睡を妨げないよう
あたしは海を首肯する


どれほどもがいても
君の手足を弛緩させ
肺に海水を流し込むような
深い、ふかい
群青の眠りに
絡まる髪を持ち上げた突風
巻き昇る、のぼる
白い首の分解と
散花

2007/07/03 (Tue)

[13] 上手な家への帰りかた
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油をひいたばかりの床に
児らの笑い声が散らばっていたので
つまんで手の平にのせたら
ころころとふるえて弾けた
遠き山に、日は落ちて
白墨を移した袖口に
西日との混濁を見る

小さな胸に
しっかと抱いた
獣の温みが
清らかなままで
いられるすべを
あなたがたは確かに知っている。
あるいは分け与えることを、

黒板の角から、角へ
妬みと憎悪、それからかなしみを敷き詰めて
撫でるように消してゆく
小さな机に降り注ぐ
あなたがたの声が
明日も湿らないよう

獣の肥大した自我が
背を食い破り
臓物の匂いを細胞に刻む。
その温みを清らかな喜びとして背負うことの
美しさよ、

木枠の窓硝子に
児らの笑い声が張り付いていたので
つまんで懐にしまったら
私は私の涙に許されていた
遠き山に、日は落ちて
白墨を払うように
わたしは祈る

2007/10/03 (Wed)

[14] 海洋博物館
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降ります、のブザーを押し忘れて
バス停をふたつ見送った
硬貨2枚で
海の匂いがするね、と言えるくらいのことは許される
むずかる幼子のような
まあるい昼下がり

ロータリーから地下街へ降りたら
家族連ればかりで気が滅入った
命を孕んでみたい、
そうすればなにもかも
上手くいくような気がする
硝子張りのアーケードが
湾曲してゆくのを
子どもたちだけがじっと見つめていた
そのやわらかな骨組みは
海鳥にも似て

海洋博物館は錆びた骨を剥き出しにして
鴎の子らを怯えさせる
自らの航法を思い出せないのだ
その腹に宿したものが
私には見えない

命を孕んでみたい、
そうすれば飛ぶくらいのことは許される
そんな気がする

2007/10/03 (Wed)

[15] 青の王国
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潮音、拡やかな幸福
海の縁に腰かけていた
中埠頭は青くあり
ごうごうと鳴るごとに
背骨のきしむような気がして
足首をさらう水音で紛らせている


波間に叫ぶようなことばを
持ち合わせてはいない
甘く柔らかな舌は
飛沫との混濁に置いてきたの
群青のぬくみが喉笛に達するとき
首を持ち上げるは逆立ちの眼
じくじくと潮が浸みる
塵芥/とプラスティック片の半透明/海鳥に還る様を/それはとても/広大な円を/えがく/えがいて/渦巻い/て/瞼を閉じる/許して呉れます、か


海の果てには
幸福が在りますか
静止し口許のほころび
指先で繕いながら水音をきく
ならばここが いっとう
こうふくな
ばしょ


現像液にひたしたような君が
ゆうらと海に写った
ファンをまわして
ごうごうとした反響に
定着するのを待つ
水面を四角くすくいあげて
ふところに仕舞うことが
正しかったのか、は、わからない
待ちくたびれの、戯れ
忘れてしまうことに酷くおびえていた
許して呉れますか
ことばは何も残せずにいる


海の縁に腰かけていた
コンクリートに踵を擦り付けて
鈍群青の外気と海を混ぜ合わせる
中埠頭は青く在り
ごうごうと鳴るごとに
海鳥の旋回を強くする
潮音、拡やか
幸福の海


2007/10/18 (Thu)
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