詩人:たかし ふゆ | [投票][編集] |
深夜のファミレスで遅い夕食を取った後
何故かいつも、冷たいものを食べたくなる
雲間から覗く月は冷えていて
一通、メールが届く
言葉にならないものが、バカみたいに詰め込まれている
10円玉を握って遊ぶ子供が、少しだけ過去と被る
俺にとっては甲斐のあるコインだったが
彼には違っただろう
国籍が違うのと同じくらい
僕らはみんな、違う場所で息をしている
世界は常に1ミリずれていて
一人分のスペースを否応なしに作る
僕らが恐れるのは
死ではなく、孤独
メールを開く
安直な言葉と、異国の情緒溢れる画像
あいしてる、の一文
少しだけ僕の体温が上がる
まだ孤独ではない、という安堵
まだ生きている、という感覚
消えない会話
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ビー玉が、狭い路地の裏を転がっていって
追い掛けた矢先、君に出会った
燻らせた煙草の煙が僕らを別つので
靴先でもみ消した
虹の到来と一緒に、良い香りが風に乗っていた
もしも世界が雨で溢れていたなら
僕はきっと、照れ臭そうに君に寄り添おうとしただろう
手のひら、二人分
人が誰かと繋がるには、それくらいが丁度良いんだ
なるかみの
すこしとよみて
さしくもり
あめもふらぬか
きみをとどめん
なんてな
なんてな
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つながることのないジグソーパズルのピースを
夜通し、探していたんだ
見つかるわけもないのに
街路樹の枝が伸びていて
葉に付いた、昨日の雨の残り香が優しさを醸す、その根本で
シャンソン人形が歌っていたんだ
孤独と空っぽの言葉を、静かな喧騒の中で
生まれ来る者にも
死せる者にも
どれほど祝福に満ち
どれほど悪意に溢れていても
やがて、ツンとした空気と光に照らされていく
深夜のファミレス
人となり
たった一人で朝を待つ老女
夜の限り、誰かと孤独を分かち合う女子高生の群れ
心の凹んだ部分とか
隙間とか
いっさいがっさいを埋め合わせる事が奇跡のような、時代の中で
それでも、僕らは誰かをスポイルする
優しさも残酷さも、全て含んだ
ただの、朝、という希望
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‐霧の中に、それこそてめえのその先ってもんが紛れ込んでる。
そいつが、常に俺を付け狙ってやがる。
つまり、人はたいがい、自分ってやつに殺されるのさ。
‐どうかね。生きるも死ぬのもてめえ次第なのは理解できるが、なら俺たちは何でユーカラと戦ってんだ?
‐それはだな……
‐見ろ、そういうこった。結局のところ、鞘に収まりゃ、あとはどうだっていいのさ。
個人主義の裏側で、中身のねえ大儀を振りかざしてるだけ。
人間とユーカラ、本当に物騒なのは、一体どっちなのかね。
‐舞台『修羅雪城のふたり』
台詞より
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言葉を駆使して、不完全な円を訴えてきた
その背後にはいつも、音楽があった
世界をかき鳴らす音と声は伝染するということを
僕らはいつも偉人の死で知る
死を知る度に思いにふける
とりとめもなく
かつて僕らが青色だった頃の音楽のことを
音楽というのは、それ自体はそれほど突き詰めて作られるものではない
重なりあう偶然から生まれる
即席ラーメンのような出で立ちを経て
何かのきっかけで人の耳から脳へ入り
心という存在しないはずの存在へ響いて
僕らを支配する
僕らの声を
僕らそのものを
そうして、分裂と伝染と再生を繰り返していく
やがて忘却したとしても
いつか死を切っ掛けに記憶の彼方から甦る
時代が続く限り、音楽は無くならない
偉人が死んでも、音楽は死なない
僕らが、生きている限り。
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抵抗する暇もなく
目が覚めてしまった
飛び込んでくるナロンエースの空箱と、光
始まりの光景は、いつも静寂に満ちている
時として、隣で寝息を覚える
眠り続ける恋人と、精神的な独りという反比例
起きている者が生者なので
彼女は、目覚めるまでは死者のまま
そのときは
たまに手を繋いで、何とか落ちようとする
夢の中までは共有出来ないと知っても、なお
鳥の声が徐々に鮮やかになる
広場のトーテムポールにかかる朝陽
世界が目覚める
僕らは、刻々と時を刻む
知りすぎ、味わいすぎてしまった人の死と
生きている感覚の狭間で
絶えず揺れながら訪れる、日々
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世界の果てで起こることについて興味がある
海の向こうで起きる事件について怒り、悲しむこともある
だが、僕らは深くを知らない
自分と世界を繋ぐザイルは、思った以上に脆いのだと知った
夕風を浴びながら、昔、僕らはヘッドフォンから流れる音楽に身を委ねて、常に何かを探していた
繋がりと、その意味を、探し続けていたのだ
駅の吹き抜けで、懐かしみながら、過去に浸る
そこに、必ず音楽がある
今だ騒然とし
鳴り止まないミュージックたち
やがて断片となるまで
僕らは一体と化して
今度は、新たな何かを探していくのだ
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真夜中を遊ぶ
そんな日々の中で、僕らは音楽に出会う
朝目覚めるだけで偉いと思える、そういう世界の中で
すべての人類が、そうであればいいのに、と
戦争を知らない世代だというのに
戦争を語る僕ら
難民を語り、テロを語り、民族を、宗教を、世界中の正義を語り合うより
空の青さについて語るほうがよほど良い
そんな気がする
なんてな
なんてな
それ
今年もレディオのスイッチを入れろ
眠る間際に眼を開けて
耳を澄ませて
寒空の中、少しだけカーテンを開け放ち
今年も音楽を聞こう
誰のための音楽でもない
世界中の人々に向けて放たれる12月の魔法だ
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テールランプの赤い波
うねるジャンクション
淀川の川音と、冬のにおいと
裸足で歩いている子供が、海の向こうにいる
鳴り響く爆撃音と、血のにおいと
彼らは銃を拾い上げ、平和と、住む場所を
僕らは自由主義詠い上げ、権利と、名声を求める
そんな大人になりたくなかった
なってしまった現実の中で、何をすればいいだろう
淀む想いと、ヘッドホンから流れ出る音楽
いつまで子供のままでいられたのか、という問い掛けでさえ
もはや、つかの間の輪郭
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昔、田園都市線は田園風景の中を走るものだと思っていた
南仏の原野を走る列車のようなものを
今でも珠に思いそうになる
二子玉川
たまプラーザ
アヴィニヨン
セザンヌの絵画の名も無き貴婦人
うららかな陽射しの中の温度と
何年か前の君のぬくもりとを
優しさと花弁の中で
重ねるように思い出す
オーバーラップ
前へ進む
ただ、手のひらに風を集めて