詩人:たかし ふゆ | [投票][編集] |
空が澄んでいるのに
もやもやとしている不思議さ
清澄な空気を鼻腔いっぱいに含んで
突き抜ける、秋晴れ
さはやかなれど
干された、かたっぽの靴下
オハイオのマーケット
香る微炭酸、三ツ矢サイダー
不自然に生きていく
自然な僕ら
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穴の空いた風船を膨らませようと
必死に息を吹き込んでいる
足元に転がっているコカ・コーラのビンを
黙って見つめている
はじけていくアップルサイダーのような爽快な空と
泣き声にならないかなしみを幾度となく溜め込んできた海と
青
世界の半分はかなしみで出来ている
僕らは、その半分の10分の1も知らない
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目を閉じて
目を開ける
一瞬の行為の間に
ふと
世界がブリンクする
雨粒の切れ間
雨上がりのバス停と、差し込む夕暮れ
逆行する時間と
それから
これから
名前の無い歌を口ずさみながら
虹を待ち
遠くに
君の名を呼ぶ
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誰かに覚えていてほしくて
生きているはずなのに
気が付けば
一人で浜を歩いている
この国の海風は少しだけ強い
黒人と白人と黄色い肌の子供たちが
笑いながら駆け抜けていく
その横目
風船が舞う空は異様に青い
空の白い部分は雲
青い部分は何だろうか
答えのない世界の果てで
廻る、言葉とリズムと誰かの優しさ
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遠浅に、波を聴きながら君を思う
夜空には星
地上には詩
僕らは星を追いながら
遠く
異国の情緒を切り分ける
シリウスのパノラマ
追い抜かれた夏の終わりと
始まる僕ら
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薬指が光って見える
出先から戻った直後の茶の間
寝転がる妻の指先を眺めながら
身を二つにしたことを実感する
振り向いた妻の飾らない視線
パスタの周りに蒔いたシナモンの香り
リングの内側に彫られた、他愛もない言葉
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高校の時に詩を書き続けていた僕は、一人では行ったこともなかった東京に足を運び続け、書いたこともなかった小説で日々を営んでいる。
その原点は、何処にあるのだろう?
恥ずかしい話になるが、高校の時に詩で誉められて気を良くしただけなのだ。
調子に乗ったら、調子に乗ってしまった。それだけなのだ。
何かで勝ちたかったし、何にも負けたくなかった。そういう自分がいたがために、今、こんなことになってしまっている。
そうして、揺れながら生きている。
ああ、人間は勝ってもいかんし、負けてもいかんなぁ、旅立ったら素直が消えてしまうよなぁ。
二人してそう言いながら、思い出の中を歩いた。
その日は結局、そのまま朝方に解散になり、学生時代と逆のルートで家へと向かった。
本当は教師になりたかった自分が、朝陽の中を走る電車の車中からその日中、ずんぐりむっくり心のなかで揺れていた。
『指先の僕ら』
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六月の末、いつもお世話になっている編集のクボタさんとの打ち合わせを水道橋の喫茶店で終えた。
あれこれとツッコミを入れながらも妥協してしまう、クボタさんの心の広さに感謝しながら、僕は東京の景色を改めて眺めながら駅へと向かった。
東京に初めて来たのが十年前。高校生だったので、景色の違いもわからない。
東京の景色は実際、歩いてみるとそう変わらない道が延々と続いているが、よく観察してみると少しずつ違っている。
観察は面白い。世界が一ミリずれる瞬間を、観ることができる。
その日帰りで、仕事を終えた僕は新幹線で福山市へと向かった。
高校の同級生と会う約束をしていたのだ。
同級生のサイトウくんは、十年前のままだった。可笑しくなって僕は笑ってしまいそうになったが、踏みとどまる。十年前と今は違うので、相手が気を悪くしては、と思ったからだ。
「お前、仕事にしたんだなぁ」
そうサイトウくんは僕に言った。彼は僕の今の仕事を知っている。同時に、僕が今でも詩を書き、詩人の部屋にいることをも知っている。
変わらない存在はない、誰しも、いつかは変わっていく。
僕は詩を書き続けているが、厳密には詩人ではなく、実際に書くのは小説が殆どなので、やはり変わってしまったのだろう。
しかし、サイトウくんは僕に「変わらねえなぁ」と、自分を棚にあげて言う。
「変わらないって、もしかして偉いこと?」
「偉くはないだろう」
僕らはバカみたいな会話をしながら、夜の福山で遊び、帰りしな、サイトウくんの車に乗って、かつて通った隣市の高校の付近をぐるぐると歩いた。
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空白が続いている
時間だけが流れている
決して待たない
時も
人も
雨の音を聞き
梅雨の気配を香り
付き合い始めてから最初の一ヶ月を迎えようとしている
物語は突然始まる
誰も予測など出来ない
白紙が小刻みに揺れる
小走りで工場を駆け抜け
あの人が車中で待つ
木曜日の真夜中へと
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ボールプールの中で漂うように
微睡んでいる
溺れていないはずなのに
妙に苦しい
まるでエラの無い魚のように
線はぐるぐると円を描いて
結局何処かに外れて
やがて欠落している
春先のフロリダ
フリーメイソン
フリとクリと
フルーツグラノーラ
僕らは言葉の支払いで、いつも何かが足りない
10年前の僕は
今の僕より優しく
今の僕はきっと
10年前の僕より少しも優しくない
それでも紡ぐのだ
僕らはいつも手探りのまま
不確かな円を描き続ける
不確かな道標を探し続ける
まだ見ぬ世界と
いつの日か出会う
寄り添うべき誰かの為に
【10y】