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たかし ふゆの部屋  〜 新着順表示 〜


[22] クジハシさんとササキさん
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アルバイト募集のチラシが無造作に置かれていて
ああ、春だな、と思う
毎年こんな感じで
とりとめもなく
根拠もなく
何にもないまま、春だけを感じている

広い世界の
その中の小さな島国の
ほんの些細なひとところの
更に片隅で
男がたった一人で生きていく、という大変さと不便さ
手に職はない
だのに
生きていけるのだ、ということだけを証明したくて
走り続けている
猛然と
漠然と

俺はクジハシさんが好きなので
バイト先で必ず、クジハシさんを積極的に呼ぶ
意味もなく
理由もなく
何度も
何度も

前へ進むために
一呼吸だけ置く、という理不尽さと優しさ
俺は自分に甘いので
テキパキと動き、呼吸し、進み続けるクジハシさんに

ササキさん、

と呼ばれるだけで
動悸がする
動揺する
ああ、情けない
ああ、世は無情
俺は無言で叫ぶ


しかし
クジハシさんは、多分そうでもないのだと思う

2016/03/19 (Sat)

[21] 優しいスペクトル
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昔、田園都市線は田園風景の中を走るものだと思っていた

南仏の原野を走る列車のようなものを

今でも珠に思いそうになる

二子玉川

たまプラーザ

アヴィニヨン

セザンヌの絵画の名も無き貴婦人




うららかな陽射しの中の温度と

何年か前の君のぬくもりとを

優しさと花弁の中で

重ねるように思い出す

オーバーラップ

前へ進む

ただ、手のひらに風を集めて


2016/03/19 (Sat)

[20] リトルワイルド
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テールランプの赤い波
うねるジャンクション
淀川の川音と、冬のにおいと

裸足で歩いている子供が、海の向こうにいる
鳴り響く爆撃音と、血のにおいと

彼らは銃を拾い上げ、平和と、住む場所を
僕らは自由主義詠い上げ、権利と、名声を求める
そんな大人になりたくなかった
なってしまった現実の中で、何をすればいいだろう

淀む想いと、ヘッドホンから流れ出る音楽
いつまで子供のままでいられたのか、という問い掛けでさえ
もはや、つかの間の輪郭

2016/01/22 (Fri)

[19] ラジオ チャリティ・ミュージックソンのテーマ(仮)
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真夜中を遊ぶ
そんな日々の中で、僕らは音楽に出会う
朝目覚めるだけで偉いと思える、そういう世界の中で
すべての人類が、そうであればいいのに、と


戦争を知らない世代だというのに
戦争を語る僕ら
難民を語り、テロを語り、民族を、宗教を、世界中の正義を語り合うより
空の青さについて語るほうがよほど良い
そんな気がする
なんてな
なんてな


それ
今年もレディオのスイッチを入れろ
眠る間際に眼を開けて
耳を澄ませて
寒空の中、少しだけカーテンを開け放ち
今年も音楽を聞こう

誰のための音楽でもない
世界中の人々に向けて放たれる12月の魔法だ

2015/12/17 (Thu)

[18] 鳴り止まないミュージックのテーマ
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世界の果てで起こることについて興味がある
海の向こうで起きる事件について怒り、悲しむこともある
だが、僕らは深くを知らない


自分と世界を繋ぐザイルは、思った以上に脆いのだと知った
夕風を浴びながら、昔、僕らはヘッドフォンから流れる音楽に身を委ねて、常に何かを探していた
繋がりと、その意味を、探し続けていたのだ


駅の吹き抜けで、懐かしみながら、過去に浸る
そこに、必ず音楽がある
今だ騒然とし
鳴り止まないミュージックたち
やがて断片となるまで
僕らは一体と化して
今度は、新たな何かを探していくのだ

2015/12/17 (Thu)

[17] 日々
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抵抗する暇もなく
目が覚めてしまった
飛び込んでくるナロンエースの空箱と、光
始まりの光景は、いつも静寂に満ちている

時として、隣で寝息を覚える
眠り続ける恋人と、精神的な独りという反比例
起きている者が生者なので
彼女は、目覚めるまでは死者のまま
そのときは
たまに手を繋いで、何とか落ちようとする
夢の中までは共有出来ないと知っても、なお


鳥の声が徐々に鮮やかになる
広場のトーテムポールにかかる朝陽
世界が目覚める
僕らは、刻々と時を刻む

知りすぎ、味わいすぎてしまった人の死と
生きている感覚の狭間で
絶えず揺れながら訪れる、日々

2015/06/20 (Sat)

[16] ブルーソング・ア・インスタントミュージック&ポエム
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言葉を駆使して、不完全な円を訴えてきた
その背後にはいつも、音楽があった
世界をかき鳴らす音と声は伝染するということを
僕らはいつも偉人の死で知る
死を知る度に思いにふける
とりとめもなく
かつて僕らが青色だった頃の音楽のことを

音楽というのは、それ自体はそれほど突き詰めて作られるものではない
重なりあう偶然から生まれる
即席ラーメンのような出で立ちを経て
何かのきっかけで人の耳から脳へ入り
心という存在しないはずの存在へ響いて
僕らを支配する
僕らの声を
僕らそのものを
そうして、分裂と伝染と再生を繰り返していく
やがて忘却したとしても
いつか死を切っ掛けに記憶の彼方から甦る
時代が続く限り、音楽は無くならない
偉人が死んでも、音楽は死なない
僕らが、生きている限り。

2015/05/02 (Sat)

[15] 無題
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‐霧の中に、それこそてめえのその先ってもんが紛れ込んでる。
そいつが、常に俺を付け狙ってやがる。
つまり、人はたいがい、自分ってやつに殺されるのさ。

‐どうかね。生きるも死ぬのもてめえ次第なのは理解できるが、なら俺たちは何でユーカラと戦ってんだ?

‐それはだな……

‐見ろ、そういうこった。結局のところ、鞘に収まりゃ、あとはどうだっていいのさ。
個人主義の裏側で、中身のねえ大儀を振りかざしてるだけ。
人間とユーカラ、本当に物騒なのは、一体どっちなのかね。


‐舞台『修羅雪城のふたり』
台詞より

2018/01/17 (Wed)

[14] モーニング・グロゥリィ
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つながることのないジグソーパズルのピースを
夜通し、探していたんだ
見つかるわけもないのに

街路樹の枝が伸びていて
葉に付いた、昨日の雨の残り香が優しさを醸す、その根本で
シャンソン人形が歌っていたんだ
孤独と空っぽの言葉を、静かな喧騒の中で

生まれ来る者にも
死せる者にも
どれほど祝福に満ち
どれほど悪意に溢れていても
やがて、ツンとした空気と光に照らされていく
深夜のファミレス
人となり
たった一人で朝を待つ老女
夜の限り、誰かと孤独を分かち合う女子高生の群れ
心の凹んだ部分とか
隙間とか
いっさいがっさいを埋め合わせる事が奇跡のような、時代の中で
それでも、僕らは誰かをスポイルする
優しさも残酷さも、全て含んだ
ただの、朝、という希望

2015/03/10 (Tue)

[13] 雨を待つ
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ビー玉が、狭い路地の裏を転がっていって
追い掛けた矢先、君に出会った
燻らせた煙草の煙が僕らを別つので
靴先でもみ消した
虹の到来と一緒に、良い香りが風に乗っていた

もしも世界が雨で溢れていたなら
僕はきっと、照れ臭そうに君に寄り添おうとしただろう
手のひら、二人分
人が誰かと繋がるには、それくらいが丁度良いんだ

なるかみの
すこしとよみて
さしくもり
あめもふらぬか
きみをとどめん


なんてな
なんてな

2015/03/10 (Tue)
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