詩人:ナナエ | [投票][得票][編集] |
ため息がこぼれる午後5時
一人でいるとなぜか
あの景色が眼下に広がる
あの日はママと喧嘩して
近くの浜辺に逃げ出した
持ってったのはケータイだけ
いつの間にか時間が流れて
暗くなってきて
それなのに
防波堤を海に向かって歩いたんだ
背中に夕日を感じながら
月がうっすら登る海のほうへ
一人歩いて行ったんだ
波の音と風の音
すべてが海に吸い込まれていくようで
時々立ち止まり
繰り返す水の動きに目をやりながら
行き止まりまで歩こうと
すると海から
ものすごい風が吹いてきた
もうこっちへくるな戻りなさい
そう言ってあたしを押し戻すような
強い風に
あたしは耐え切れず後ろを振り返った
そしたらね
目の前に
まぶしいくらいに暖かさに満ちた夕焼けが
あたしを照らしたんだ
今まで見てた
暗い海が炎で燃やされているかのような
そんな錯覚を感じさせる景色だった
あたし帰らなきゃ
そう思ったとき
ケータイが鳴った
今日の夕飯は
炊き込みご飯だよ
ママからのメールだった
あの時の感動は今も
この目に焼きついている
ため息がこぼれる午後5時
だけどもう二度と戻らない
秋の夕暮れ