詩人:さみだれ | [投票][編集] |
病室の窓から入り込む風が
カーテンを揺らす
彼の手には詩集があり
次のページはなかった
彼はそのことに気付かないふりをし
同じ詩の同じ終わりを読み続けた
裁判長は決めなければならない
彼の者の罪の重さを
自分を正当化するための算段を何度もした
間違った決断をしたときのために
誰もが納得するだろうか
正当化が下手な言い訳にならぬように
裁判長は何度も繰り返し考えた
それでも人は変わらない
絶対的な流れの中にあって
変えられずに溺れている
それは自己陶酔の意でもあり
現実的な意でもある
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記憶がずっとあれば
私は優しさを忘れずに
あなたの顔を 声を 仕草を
話した言葉を忘れず
それでも人は忘れなきゃいけない
思い出を大切にするなら
あなたの優しさを 涙を 喜びを
話したかった言葉を大切にするなら
心のどこかにずっとあった
私の淡い恋心に
あなたの名前を それだけを いつでも
好きだった気持ちと眠らせてあげよう
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綿毛の中に
小さな家を
白いドアを開けて
お茶を飲みましょう
青いポットから
ピンクのカップへと
今朝の露で淹れた
紅茶を一口
地球は背を持たない
向かい合って語る
昨日の辛さ
今日の儚さ
明日の尊さを延々と
窓辺の花に
あなたはたどり着く
赤い花びらへ
さあ 眠りに行きましょう
琥珀の石畳を抜け
緑のトンネルをくぐり
やがてこの旅は終わり
その次へと日を跨ぐ
地球は腹を持たない
すべて教えてくれる
昨日の拙さ
今日の素直さ
明日の喜びをずっと
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春の野を思え
風に揺れる新芽を
その胸には
花があると思え
希望ほど優しくケチな奴はいない
心がむくんでしまえば
起きるのが嫌になるから
絶望は鬼の面を着けて歩きはしない
春の野を吹く風に
何食わぬ顔で紛れているのだから
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早起きの金星
雲の中に
七色の夕暮れ
その二色目に寝転び
わたしの背には
暗がりが見えますが
月が煌めき見下ろしますが
この世界の先は
終端はどちらにもありません
ただ綻びを指すならば
七色の境界
まだ定めを知らない自由な川よ
空だけが繋がらない
この星の意地悪は
わたしの目にも悪戯をする
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私はどれほど強くなっただろう
あなたがひたむきに歩くのを見て
星ほどの距離を感じる
「羽があれば」とか
「星になれたら」とか
絵空事を思い
私は歩いた
答えがなくなり気は沈むだろう
それでも道を作るあなたを
星ひとつ分の光が促す
どこにでも行けるように
私は弱いちっぽけなものだ
言葉もろくに出てこない
星ほどの輝きを内に宿せど
あなたひとり見つけられない
それでも私は歩くだろう
ただ歩き続けるだけだとしても
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薄っぺらい優しさを
諸手を挙げて掲げる
足元がないことを知らずに
そうしていれば愛される?
そうしなければもう愛されない
純粋無垢ではいられないもの
かわいそうにね
我を持たない人間なんて
機械的で気持ちが悪い
あらかじめ与えられたプログラムなんて
茶番でしかないのに
それを嬉々として見せびらかす
博愛主義者の仮面
目の色がよく見える
あなたが進展を好機を求めるなら
いますぐに死んでください
来世に期待しながら
幸せだったと誤魔化しながら!
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くるくる回っているから
どこにも行けないね
毎日同じ空を眺めて
生きなきゃいけないね
このままふたり彗星になれたら
きっと素敵にちがいない
青い尾をうんと長く
願いが叶うようにと
私はちっぽけなヒト
重力すらもたない
有機物の塊だ
ひとりきりのデブリとなって
気が付けば燃え尽きてしまうのだろう
この星の手に捕らえられて
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たぶんわたしの望む世界はすごく退屈で
ギザギザしたものがないと思う
なだらかに地平を這う
真っ直ぐ進む変わったヘビ
それがわたしの正体でもあるのでしょう
私が人間に生まれたこと
神様は嫌がっている
髭をポリポリ掻きながら
つまらない世界を否定して
たぶんわたしの望む世界は生まれない
刺し貫かれた優しさに満ちている
重力を無視することは
必然的に他者を傷つけることになる
なぜならば
わたしの望む世界は生まれないから
行き先のわからないバスは怖いけど
わかるバスはどこか退屈だ