詩人:さみだれ | [投票][編集] |
日に日に老いゆくあなたを
引き止める手だてはなく
傷だらけの肌を愛しく触れ
あなたは満足そうに微笑むけれど
知っているんだ
鏡の前であなたが泣き崩れる姿を
好きなものを食べられない姿を
冬が来るたびにこの世の終わりのように
閉めきった窓に手をあてて
嘘偽りの話をして
あなたは何食わぬ顔で振り向くけれど
ソリに乗った子供
手を振る母の姿
シボレーにチェーンを履かせ
銀世界に飛び出す若者
あなたは映画を見ているように
じっとしているけれど
知っているんだ
暖炉の火を守る理由を
傍目にしか人を見られない理由を!
煙草の煙が白熱灯にふれて
音もなく消えていく
空のボトルを指で転がすあなたの目は
ダイヤのリングを見ている
知っているんだ
先のわからない死に怯える心を
変わらずにはいられない姿を
あなたは隠しているつもりなんだ
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違う
違うんだよ!
詩が時間であるならば
それは鈍痛だ
勘違いしてはいけない
詩が宇宙であるならば
それは理だ
分け隔てるべきだ
詩は物語ではない
格言とは似て非なる
技術をもってして書くものだ
我々は詩人だ
患者ではない
我々は詩人だ
営業ではない
我々は詩人だ
道具ではない
我々は詩人だ
捌け口ではない
我々は詩人だ
大勢のひとりに過ぎない
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知らない人が
ぼそっと呟く
かき氷の海で泳ごうよ
なぜなら君は
いちごのシロップ
沖まで行ったら
帰ってこようよ
雨が降ったら
友達増えるよ
沖まで行ったら
親友って呼ぶよ
知らない人が
通りすぎていく
ブルーハワイ
そう名乗ってたような
どこまでも澄んでて
嘘のような幻
かき氷の海では
色んな人がいるよ
誰もがみんな
溶け合う海だよ
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カエルの合唱
指揮者のカタツムリ
紫陽花の壇上で
手を叩いて歌いませんか?
今日ほど素晴らしい天気はまたとないでしょう
二本足で歩いた記憶
最近思い出したんだ
その頃歌った歌を
ゲコゲコ一緒に歌いませんか?
喉が潤っていてうまく歌えそうでしょう?
葉っぱを叩くのど飴
紫陽花の壇上に一匹のハチ
ブンブン一緒に歌いませんか?
今日会ったのも何かの縁でしょう
ゲコゲコ一緒に歌いませんか?
手を叩くのも楽しいですよ
今日ほど素晴らしい天気は
歌を歌うに限ります
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あなたを素晴らしいと歌う歌はたくさんあるのに
あなたは死に近い行為をする
あなたを素晴らしいと讃える預言者がいるのに
あなたはそれを忘れてしまう
そして風呂上がりの柔らかい腕に
みっともない傷をつける
あなたはつまらないと罵る悪魔はいても
あなたは死んでいいと囁く冥王はいない
もし他に喜びを見いだせるなら
あなたはそれを肥大させるべきだ
それでもその行為をやめられないのであれば
あなたは深く刃を入れるべきだ
その行為に喜びを見いだしたなら
私はあなたを殺そう
黄泉の坂でその手を振り払おう
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夜毎鳴く鳥が
どこかへ旅立った朝
私はチェストの中の聖書を読み返そうと思った
とても幸せとは言えないけど
今までよりは穏やかになっていたから
親友は影を作らない
足音がうるさいんだって言ってた
ロンドンの雲を風のそりに乗せて
町の上に住まわせてあげた
ねぇお願い
窓を叩く鬼たちの夢
追っ払って?
夜毎鳴く鳥が
ようやく飛び立ったのに
私はちっとも眠れやしないの
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お楽しみ会
椅子とりゲーム決勝戦
ファイナリストの少年は
集会のときいつも先頭だった
少年は給食の牛乳を残さない
それなのに整列のたび腰に手をあてていた
その日少年はツいていた
三十人の猛者どもを蹴散らし
死闘の果てにたどり着いた椅子
その椅子はおそらく近い未来博物館に飾られることになる
決戦の場に似合わず
軽快な音楽が流れる
始まった
少年は相手の動きを窺った
視線、間合い、息づかい、
嵐の前の静けさか
ギャラリーは固唾を飲むことも躊躇われる緊張の中にいた
少年は思う
この戦いの果てに何があるのだろうか、と
少年は無駄な思考を叩きだし、集中した
"考えるんじゃない!感じるんだ!"
学校側の理不尽な扱い(集会の件)が走馬灯のように
そしてその先にあるものを少年は見た
そのとき少年は初めて無我の境地へと達した
ピタッ
まさに一瞬の出来事だった
光のごとく神速で誰も終わったことをすぐには認識できなかった
そう、ただひとりを除いて
栄光の玉座に腰を据えた少年はまさに王と呼ぶにふさわしい貫禄を見せつけていた
祝福と賛辞の中先生は言う
「背の順に並んでくださーい!」
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彼はギターを弾いた
左手は踊るように
右手をリードした
ホールにいる連中は
宇宙をさ迷っている
"あいつは本物だ!"
ブロンドの男は指差し叫んだ
彼はそれに見向きもせず
壁に張られたインディーズのポスターを
じっと見つめていた
ロックンロールは転じて
自己の破壊を意味する
彼もまたそうだった
彼の頭は名声と薬でヤられていた
ホールにいない連中は
きっと悪態をついている
"あいつはイカれてる"
眼帯をした女は中指をたてた
彼はそれに気づきもせず
最後のリフを決めた
彼のステージには
誰も上がることができなかった
彼を愛した少女は
父の書斎で見つけた38口径を彼に向けた
ホールにいる連中は
彼に釘付けだった
"私を見て"
彼はギターを弾いていた
細くしなやかな指で
人々を魅了した
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銀色の船が月の裏側を通過した
先生は創世記の話ばかりするけど
窓の外では不可思議な未来が語られている
隣の席の子は教科書を忘れて
仕方なく机を寄せあっている
校庭には太陽の使いがやってきて
知らないこと大声で教えてくれてる
僕たちの頭の中には五時間目の小テストのこと
堪りかねて太陽の使いは校庭を焼いてしまった
デパートの屋上付近で
UFOが信号を発した
僕たちの知らない色
隣の席の子は足をバタバタさせているし
先生は黒板にわけわからない持論を書き並べているし
五時間目の小テストのことを考えると胃が痛くなるけど
銀色のちかちかした船には胸が踊るよ
月の裏側には何があるのか
窓を蹴破って見に行きたいね
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男の子は帰ってこない
オレンジの服を着ていたの
それは澄んだ瞳で
世界を旅したいと言っていた
おかしいね
気持ちは雲の上を飛んでいるのに
渡り鳥みたいに楽しそうなのに
女の子はいつの頃だって
青い靴を履いていたよ
これひとつで世界は変わると
アスファルトの上を滑っていた
おかしいね
気持ちはじっと座っているのに
円の中で座っているのに
世界が僕に旅させてはくれないし
君がそこにいても世界は変わらないし
世界はじっとしている
あなたが歩くまでは