詩人:さみだれ | [投票][編集] |
私が音を拾えなくなったとき
あなたの声も思い出せなくなるのでしょうか
私が光を失ったとき
あなたの姿も思い出せなくなるのでしょうか
私が音を捨てられなくなったとき
あなたに何も伝えられなくなるのでしょうか
私が心を失ったとき
あなたに何もしてあげられなくなるのでしょうか
もしも私がぬくもりを感じられなくなったなら
あなたの手を握ることができるでしょうか
もしも私が眠れなくなったなら
あなたは目を覚ましてくれるでしょうか
もしもあなたが今そこにいるなら
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
機械のままで
オイルで満たして
限りない時間を
そこで過ごしていよう
コンベアから
流れてくる歌を
包装するのが
僕の仕事だ
何も感じなくていい
何も思わなくていい
ただネジが緩み出したら
締め直してほしい
暗い思考回路
短絡する景色
赤く染まる頬
ウエスで拭いた涙
スイッチひとつで
寝たり覚めたり
夢を見ることはできないけど
夢を包んでいる
水滴ひとつで
死んでしまうけれど
直せばまだ大丈夫
きっとまだ生きてる
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その世界には何人かの友達がいた
好きだと思った子に話しかけることもできた
街を歩いた
グループで歩いていた
楽しそうに"どこに行こうか"なんて
その世界に"俺"はひとりじゃなかった
とてもいい気分だった
ずっといたいと思った
目が覚めると俺はひとりだった
仕事に行かなくちゃいけない
そうだ、仕事に行って
帰ってご飯を食べて
風呂に入ってテレビを見て
ああそうだこの世界には友達がいない
好きだと思った子に話しかけることもできない
さみしい、と心から思った
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触れたら弾けてしまう
バブルの心は軽いんだよ
移り気でもあるんだよ
息できるほど空気はない
バブルの心は苦しいんだよ
戸惑ってるんだよ
砂漠で彼女を見つけたら
抱き締めるでも水をあげるでもない
夜が来るまで影を作るよ
風に飛んでいかないように
前を歩きながら
人は勝手に名前をつける
バブルの心が答えないのをいいことに
触っては去っていく
触れたら弾けてしまう
バブルの心は軽いんだよ
そこにあるのも忘れるくらいに
小さなものなんだよ
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彼は月世界から来たんだ
だって肌は白いし
言葉は通じないし
ふわふわ浮いているようだったし
女の子たちは彼に近づけなかったんだ
彼の声はひどかったからね
歌うにはあまりにも不格好だったよ
彼はいつも欲しがっていたんだ
マリンブルーの宇宙カクテルってやつをさ
海の中にありながら星が散らばっているなんて不思議だろう
大人たちは彼に言えなかったんだ
彼の知能は決してよくはなかったからね
接するのが難しかったよ
彼はバンドを組んだ
やはり歌い手は彼だったよ
おまけにギターまで弾いていた
観客は誰一人笑わなかったんだ
だけど聞いてもいなかったんだ
彼の詩はつまらなかったし
バンドは息がバラバラだったし
地球で暮らすにはあまりにも酸素が濃すぎたんだ
彼は月世界から来たんだ
それはもう嘘幻のような世界だってさ
その世界で別れた恋人の話を
彼は誰にも秘密にしていた
最後の時まで秘密にしていた
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ゴミ山であなた生まれていたら?
大層自分を可愛がるでしょうね
生まれる前から温かくしてた?
そうだから他人を気にしてばかり
自分は安全地帯にいる
でもね一歩踏み出してごらん
ブレーキの壊れた誰かに
君の安全は壊されるのです
いとも簡単に壊せるのです
自分というものは
窮屈な部屋で
縮んだお下がりのシャツ着て
通販で頼んでおいた温かい人間(なりは化け物)
愛するという建前で食べてしまうんだ
よその国であなた生まれていたら
きっと知らんぷりできたでしょうね
あなたの隣で起こる奇跡や不幸
あなたの一万キロ隣で起こる神秘や絶望
こんなところに生まれてきたばかりに孤独だ
いつまでとぼけてるつもり?
かっこつけたって建前だよ
いつまでとぼけてるつもり?
曖昧なままにしておいて踏み倒すの
なかったことにしておくのです
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私は星になりたい
あなたの星座の一番輝いてるやつ
手を伸ばせば届きそうなくらい
明るいのがいいな
俺は月になりたい
君の星座のすぐそばに居座ってやる
かき消さないほどの明るさで
君に見えるほどの明るさで
だったら私は太陽になりたい
あなたの知らない時間を過ごすの
そしてたまにあなたと会って
こんなことがあったんだよって
だったら俺は鳥になりたい
君に贈り物をするんだよ
うんと高くまで飛んで
こんなものがあるんだよって
なら私は空になりたい
そうすれば夜でも会えるでしょ
あなたが気持ちよく飛べるよう
晴れていたいな
俺は海になりたい
君がどれだけ泣いてもいいように
でかい水溜まり作って
光をあげるよ
うん
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悪魔の鏡
天まで届け
割れることなく
終わる物語だったなら
君が裸足で
駆けることもない
森の中を
さ迷うこともない
悪魔の鏡
欠けたひとつに
心惑わされても
優しさひとつで
溶けてしまうさ
春が来ること
知っているのさ
悪魔の鏡
天まで届け
君が雪を嫌わぬように
童話「雪の女王」より
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ひとつ
海に帰った
泡が消えてなくなる頃
またひとつ
砂の中に隠した
足跡が消えてなくなる頃
全部
海の真ん中
楽しかったこと
辛かったこと
嬉しかったこと
唇を噛んだこと
好きだったこと
恥ずかしかったこと
安心したこと
胸が締め付けられたこと
永遠に続くこと
頬を湿らせたこと
全部
海の真ん中
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彼女は色を変えて
悲しいけど涙を降らせて
長い長い冬を
ただただ手を温めて
終わるときを待っていた
彼女は時折影を指して
"君は楽しそうだね"
手を広げて
抱き締めてあげたいけど
"触れられないよ"
彼女は毎日のように
決まった道をなぞることしかできない
生まれたときからそうだったなら
生まれたのはどこなのだろう
人知れずそこにあって
消えていくだけなの?
彼女は熱を帯びて
楽しいけど手を振って
裏返しにした気持ちの奥
ただただ胸を押さえて
再び会うときを待っていた
この切なさを
人は拾えるだろうか
この美しさを
讃えられるだろうか