ホーム > 詩人の部屋 > さみだれの部屋 > 月世界

さみだれの部屋


[411] 月世界
詩人:さみだれ [投票][得票][編集]

彼は月世界から来たんだ
だって肌は白いし
言葉は通じないし
ふわふわ浮いているようだったし
女の子たちは彼に近づけなかったんだ
彼の声はひどかったからね
歌うにはあまりにも不格好だったよ

彼はいつも欲しがっていたんだ
マリンブルーの宇宙カクテルってやつをさ
海の中にありながら星が散らばっているなんて不思議だろう
大人たちは彼に言えなかったんだ
彼の知能は決してよくはなかったからね
接するのが難しかったよ

彼はバンドを組んだ
やはり歌い手は彼だったよ
おまけにギターまで弾いていた
観客は誰一人笑わなかったんだ
だけど聞いてもいなかったんだ
彼の詩はつまらなかったし
バンドは息がバラバラだったし
地球で暮らすにはあまりにも酸素が濃すぎたんだ

彼は月世界から来たんだ
それはもう嘘幻のような世界だってさ
その世界で別れた恋人の話を
彼は誰にも秘密にしていた
最後の時まで秘密にしていた


2012/03/05 (Mon)

前頁] [さみだれの部屋] [次頁

- 詩人の部屋 -