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さみだれの部屋


[683] フーガの終わり
詩人:さみだれ [投票][編集]

化け物は言う
なんて汚ならしい言葉
なんて気味の悪い声!
怒号でもない
悲鳴でもすすり泣く声でもない
意地悪く空を飛んだ
毒ガス兵器だ
それはベッドの上
窓の隙間

道路
山や海を越え
這っていく
化け物は恍惚のみを持ち
見ている
闇のような目
とぐろを巻く蛇が
網膜の向こうで
しきりに舌を出しているんだ!
化け物は語る
その姿形に見合った言葉
何万人もの声を重ねて!
わからない
何を言っているのか
化け物は満足したかのように
悪臭をたてて眠る
その首に
何万人もの小人が槍を突き立て
この腐敗した詩は
土に還り
また生まれる



化け物は言う
なんて汚ならしい言葉
なんて気味の悪い声
歓喜でもない
慟哭でも雄叫びでもない
愚かにも空を飛んだ
空爆機だ
それはテーブルの上
ドアの隙間

小道
川や街を越え
燃やしていく
化け物は恍惚のみを持ち
惚けている
闇のような口
暗黒物質が支配する
星と星の間で
光を喰らい尽くしたんだ
化け物は語る
最初からそうだったと言わんばかりに
何万人もの声を重ねて
共感した
そう言われたいのか
化け物は満足したかのように
悪臭を放ち椅子にもたれる
その背に
何万人もの小人が潰され
この陰鬱な詩は
土に還り
また生まれる



化け物は言う
なんて汚ならしい言葉
なんて気味の悪い声
産声でもない
声援でも歌声でもない
意味もなく空を飛んだ
核兵器だ
それはベッドの上
窓の隙間
隣家の屋根
送電線
山や海を越え
汚染していく
化け物は恍惚のみを持ち
見ている
死んだ目
羽をむしられた鳥が
虹彩の端で
ずっと羽繕いをしている
化け物は語る
それは厚く塗られた絵
何万人もの声を重ねて
わからない
何が美しいのか
化け物は満足したかのように
悪臭の中に丸くなる
その胸に
何万人もの小人が閉じ込められ
この惰性の詩は
土に還り
また生まれる


2013/05/07 (Tue)

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