詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
優しい香りに
辺りを見渡すと
通りの家の生垣に
金木犀の花。
きれいに刈られた
長方形の
濃い緑色のキャンバスに
星のような杏色の花。
出会う人ごとに
優しく包み
生きていることを
祝福してくれる
金木犀の香りよ。
秋の風に乗って
寂しがり屋のあなたに届け。
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各自が洗濯して
返却することになった
ボランティアで使ったTシャツ。
真っ先に返ってきたTシャツは
少しのしわもなく
アイロンが当てられ
ピシッと畳まれ
もとの袋に入れられていた。
新品の時より
きれいなくらいに…。
その人の
人となりのようなTシャツ…。
素晴らしいお手本に
真似をして頑張ってみる。
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バスを降り
家へ帰るいつもの道。
「フィーフィーフィー」という
聞きなれない
鳴き声に呼び止められて
見上げれば
色づき始めたケヤキの木。
「フィーフィーフィー」。
声の主が気になって
しばらく佇み
やっと見つけた茶色の鳥。
「フィーフィーフィー」。
元気いっぱいに口笛吹いて
秋の陽気を
楽しんでいるようなウソの声。
誰よりも最初に
ケヤキが色づき始めたことを
教えてくれた鳥。
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「美しいから棘がある」
のではなく
「棘があるから美しくなった」。
自らの性を
受け入れながら、
だからこそ
乗り越えようと
ひたむきな想いを重ねて…。
ふと
そんな気持ちが花開く…。
秋のバラの咲く小さな庭で…。
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一斉清掃の日。
なんとなくみんな集まって来て
なんとなくそれぞれが作業をして
ホウキだけでなく
ちり取りを持ってくれば
良かったと思っていたら
シャベルだけのおじいさんと
なんとなくチームになって
子どもたちは
子どもたち同士
なんとなく集まって掃除をし
「お父さんにそっくりだね」
とある子どもは二人に言われて
なんとなく終わった一斉清掃。
なんとなくほのぼの…
そして
すっかりきれいになる。
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天まで届け、あなたの願い。
彼方まで届け、わたしの願い。
やがて
雨雲は遠くに去り
青い空と絹のような白い雲。
優しい光が降り注ぐ。
雲を縫って
それぞれの心に…。
爽やかな風が吹く。
木立を抜けて
それぞれの心に…。
光と風と心が
一つに解けていく…。
天まで届け、あなたの想い。
彼方まで届け、わたしの想い。
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テーブルのコップの
ジューズに上に架かった
赤や緑の光の花束。
窓辺のミキサーのガラスと
早起きの光たちが紡いだ
美しい手仕事。
コップを手に取り
ジュースと一緒にいただく。
心にも小さな虹が架かって
ほっこり幸せな秋の朝。
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木は神様の
楽器に違いない。
息吹を感じて葉を揺らし
音を奏でるよ、
さわさわと…。
木は神様の
画板に違いない。
絵筆を感じて葉を輝かせ
光を放つよ、
きらきらと…。
木は神様の
御心に違いない。
佇むものに寄り添って
ともに揺れるよ、
ゆらゆらと…。
木よ…。
その音色で
その輝きで
そこに在ることで
深い安らぎと
静かな勇気を与えてくれる
木よ…。
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出雲大社の鎮座する
杵築の山を越えて海に出る。
岬に囲まれて小さな港があり
川のそばには古いお社がある。
通りに車の往来はほとんどなく
時折、海風に乗って
港から話し声が届いてくる。
澄んだ水が
ちゃぷちゃぷと磯に寄り
岬や小島の向こうには
常世の国があると信じたくなる。
遥かなる人たちがそう思ったように…。
お社は
伊那西波技(いなせはぎ)神社。
大国主神が
高天原に国を譲るかどうか
息子の事代主神に聞くために遣わした、
稲背脛(いなせはぎ)が主祭神という
(『日本書記』)。
通りかかったお年寄りに尋ねると
「いいお宮さんですよ。
私も昔だけど、
もっと昔の人に聞いてください。
気をつけて帰りなさいよ」と
手押し車を押して港の方へと向かっていく…。
島根半島の浦には
そこにいるだけで心地よい
懐かしい時間が今も息づいている…。
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胸を広げて呼吸をし
少しずつ
心を広げていく。
いつの間にか
心の窓も
少しずつ
開いているようにと…。
そしていつか
心に青い空が
広がるようにと…。
たとえ
曇りの日や
雨の日があっても
青い空ともに
生きていけるようにと…。