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中村真生子の部屋


[249] 鷺浦にて
詩人:中村真生子 [投票][編集]

出雲大社の鎮座する

杵築の山を越えて海に出る。

岬に囲まれて小さな港があり

川のそばには古いお社がある。

通りに車の往来はほとんどなく

時折、海風に乗って

港から話し声が届いてくる。

澄んだ水が

ちゃぷちゃぷと磯に寄り

岬や小島の向こうには

常世の国があると信じたくなる。

遥かなる人たちがそう思ったように…。

お社は

伊那西波技(いなせはぎ)神社。

大国主神が

高天原に国を譲るかどうか

息子の事代主神に聞くために遣わした、

稲背脛(いなせはぎ)が主祭神という

(『日本書記』)。

通りかかったお年寄りに尋ねると

「いいお宮さんですよ。

私も昔だけど、

もっと昔の人に聞いてください。

気をつけて帰りなさいよ」と

手押し車を押して港の方へと向かっていく…。

島根半島の浦には

そこにいるだけで心地よい

懐かしい時間が今も息づいている…。


2012/10/11 (Thu)

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