詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
出雲大社の鎮座する
杵築の山を越えて海に出る。
岬に囲まれて小さな港があり
川のそばには古いお社がある。
通りに車の往来はほとんどなく
時折、海風に乗って
港から話し声が届いてくる。
澄んだ水が
ちゃぷちゃぷと磯に寄り
岬や小島の向こうには
常世の国があると信じたくなる。
遥かなる人たちがそう思ったように…。
お社は
伊那西波技(いなせはぎ)神社。
大国主神が
高天原に国を譲るかどうか
息子の事代主神に聞くために遣わした、
稲背脛(いなせはぎ)が主祭神という
(『日本書記』)。
通りかかったお年寄りに尋ねると
「いいお宮さんですよ。
私も昔だけど、
もっと昔の人に聞いてください。
気をつけて帰りなさいよ」と
手押し車を押して港の方へと向かっていく…。
島根半島の浦には
そこにいるだけで心地よい
懐かしい時間が今も息づいている…。