ホーム > 詩人の部屋 > 梅宮 蛍の部屋 > 蛹

梅宮 蛍の部屋


[49] 
詩人:梅宮 蛍 [投票][編集]

上の瞼が下の瞼と睦み合う時
脳は一人寂しく空想に耽っている
耳朶に届く虫の声
秋にはまだ早いと思っていたのに
いつのまに ほら

不思議な国の話をしよう
入眠と覚醒の狭間で見られる
あの世界の話を

神経の鎖から解き放たれて
小さな羽を生やして
金属の擦れ合う音を響かせながら
脳はコチラとアチラの境界を越えていく
見覚えのある見知らぬ街で
たくさんの登場人物たちが
誰とも視線を合わせず会話をしている
一方通行コミュニケーション
その重なりで
あの世界はできている

今はコチラがアチラで
アチラがコチラ
そのうちに
脳はジリジリと痩せ細り
羽根も次第に薄くなり
触覚がニョキニョキと飛び出して
キミは蝶になる

蝶が見た夢
夢が見た蝶

上の瞼と下の瞼の
長い長い性交は
何も産まずに終わるけど
頭の中には蝶が一匹
蛹になって眠っている

2025/08/17 (Sun)

前頁] [梅宮 蛍の部屋] [次頁

- 詩人の部屋 -