詩人:漣福堂 九欒 | [投票][編集] |
こわい夢をみたの?
いやなことがあったの?
いじわるされたんだね。
失敗しちゃったんだ。
電車、乗り遅れたの?
バス、行っちゃったね。
お弁当、忘れてきちゃったんだ。
転んじゃったの? いたい?
今日も色んな人が、色んなところでいやな思いをするでしょう。
顔をくしゃっとするでしょう。
生きているから。
それが、生きるということだから。
でもね、忘れないで。
それがあるから、
幸せは、もっと幸せになれるんだよ。
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その部屋は彼女の為に宛てがわれた。
照明は暗く、浮き上がるように、奇跡のように彼女は掲げられた。
人々は列をなし、彼女と見つめ合った。
真珠の耳飾りをきらめかせ、彼女も静かに彼らを見つめ返す。
彼女の静止した時と、眼前の流体たる時間が、
厳かな空間を紡ぎ出した。
ふと思う。
彼女はあざ笑っているのかと。
とたんに世界は歪み出す。
冷徹な微笑に、空間は凍り付いた。
そう、それは鏡なのだ。
彼女は何も思っていない。
彼女の瞳は心を見透し、
真珠の輝きは、心象を貫く。
彼女は今日も、微笑むのだろう。
人の世の水鏡という、残虐を真珠に秘めて。
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今、私の手の中にマグカップがある。
その中に、美しいベージュが揺れている。
あたたかでふくよかな香りが、私の心をそっと包み込んだ。
手の中に包み込んだはずのものに、私の心が包み込まれるなんて。
こくりとベージュを飲み込んで、
窓の向こう、流れる街の灯を眺めた。
あれらすべてに喜びがあり、悲しみがあり、人生がある。
彼らも心を包み込む術を持っているのだろうか。
おや、ベージュは私の物思いが嫌いらしい。
冷めてそっぽを向いてしまった。
でも、気付いているだろうか。
君がくれるそんな時間も、私が嫌いじゃないこと。
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特にこだわりがある人間じゃないけれど。
あなたが買ってきた紅茶は、なぜか今でも続いてる。
紅茶の礼儀も知らない私たちだったけど、
見よう見まねでいれた最初の一杯の魅力を覚えているだろうか。
窓際でありあわせのマグカップを片手に笑ってみせた、笑顔のどれほど眩しかったことか。
あの日、私の心を満たしたものが、この香りでないと気付いたときから。
マグカップの中の紅は、思いのほか冷めるのが早い。
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朝日を見た。
朝焼けの空を見た。
雨の水分で潤った空気が、光に気絶しそうなグラデーションを施す。
私はベランダで彼女を眺めていて、
朝の冷気が、吐息を白くきらめかせた。
ふと下に目をやると、
通りをまばらに人が流れて行く。
街はほのかに灰色を含んで、静かに起き出そうとしていた。
私の目にある老人が写った。
彼もまた、朝日を眺めていた。
流れる人々の中、
彼だけが、光を見ていた。
赤子の様な純朴さと年月が作り出す深みが共在するその眼で、
まっすぐに朝を見つめていた。
今確実に、私と彼だけに、彼女は笑いかける。
月曜の朝、心に秘密が入り込む。