詩人:山崎 登重雄 | [投票][編集] |
子供部屋に上がる階段の曲がり角。
少し広いその場所に彼は座り込む。
ひざ小僧を抱えて泣き出しそうな顔をして。
少し広いその場所で彼は俯いたまま動かない。
日没が近い。
さっきよりもオレンジ色が濃くなっている。
外は帰宅渋滞か車の音が騒がしい。
セミの声がヒグラシだけになってゆく。
ポケットラジオの赤いスイッチを滑らせる。
コードを伸ばしてイヤホンを片耳にねじ込む。
FENの一局専用ラジオ。
もう年代物のそれから流れてくる懐かしい音楽。
アメリカの古き良き時代が詰っている。
陽は山間に隠れて残像だけが鈍くかげる。
悲しげなヒグラシに早起きの秋の虫が混じる。
まるで廃人に限りなく近いパンチドランカー。
打ちのめされてもカウントもゴングもない。
このマットに沈んだまま永遠に眠りたい。
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