詩人:Tommy | [投票][編集] |
僕は走る、走る、走る。
夜の油ノ小路。雨上り。
濡れたアスファルトに、オレンジや緑
ネオンライトのそれぞれ。
車が通るたびに跳ねる、
ジェリービーンズのかけら達。
高架下、最終電車が通る音。
工事中のライトが、
僕の顔を照らしては消える。
ゴーっと電車が
向こうの方に吸い込まれていくみたいだ。
はぁっと大きくととのえた息が、
白く噴き出て儚く消え、
たたん、と高架下に余韻だけが残った。
透き通るような冷たい空気が、
暖まった僕の体を、徐々に冷やしてゆく。
オレンジ色の街灯が、
濡れたアスファルトに溶け込んでいる。
猫背の僕は、ひどく丸まった自分の体を
初めて意識した。
すっと背筋をのばす。
ぽきっと小さく音がして、
僕がうっと言うと
白い息が少し漏れた。
向こうから、
ザァっと水溜りを蹴って、
空車のタクシーが通りすぎる。
僕はもう一度背筋をのばした。
今度は鳴らなかった。
相変わらず、工事中のライトが回っている。
僕はくるりと方向を変えて、
高架下を抜け出た。
ズッと鼻をすすって、
僕はまた走りだした。
僕は、走る、走る、走る。
夜の油ノ小路。雨上り、
ジェリービーンズが跳ねる。
工事中のライトが、ひどく気になって
ちらっと後ろを振り返る。
誰も通らない信号機が、
チカチカと青から赤に変わるのが見えた。
ついさっきまでいた所が、
もう見えなくなってゆく。
たえまなく出る白い息が、
僕を邪魔した。