詩人:右色 | [投票][編集] |
貧しい薬草売りの一家は
少女が原因不明の病に倒れたその日から
裕福になった
病床の少女は母親に尋ねる
「なぜ、急に私達はお金持ちになったの?」
母親は少女のおかげだと言った
次の日、少女は父親に同じ質問をする
すると父親はとても笑顔になって
「お前の血が、どんな病気も治す薬になるからなんだ」
父親はそう言って少女の白くて細い腕に針を刺す
少女は血を抜かれる度に
とてもとても苦しんだのだけれど
それ以上に嬉しかったので我慢出来た
こんな自分でも人の役に立てて嬉しかった
しかし
ある晩唐突に真実が顔を出す
その夜、いつも晩御飯を持ってきてくれる母親が来なかった
その夜、いつも血を抜き夢を語る父親が来なかった
代わりに哀しい目をした男の人がやって来た
「僕は君を殺すよ」
男の人は赤い涙を流しながら言った
少女はきっと男の人は何か病気で苦しんでいるのだと思った
「そんな怖い顔しないで。私の血を飲めば大丈夫だから」
少女の無垢はしかし
真実によって赤く汚される
「君の血はとてつもない毒薬なんだ」
少女は否定する前に彼の目の真実に焼かれる
灰になる前に少女は願った
「ならば、私を殺してくださいな。そうすればきっと多くの人が助かるのでしょう」
男の人は頷き
少女は願い
最後の最後で少女は薬になった
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割と好きなことがある
月光浴とまで洒落るつもりはないけれど
月の光とその影を
連れて歩くのは悪くない
視線は空へ
星を見る
カノープスから出発して
今夜も星に名前をつける
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五月が終わったと気付いた
ある六月の朝
ずっと遠くに海と
真っ白な月が見えたから
今なら
何をやっても
どんな結果になろうと
楽しめる
そんな気がするんだ
ここがもう
行き止まりだと思っていた
だって
壁があるんだ
進めないんだ
思えば
そんなのただの笑い話で
何の事はない
覚えてないだけで
僕は
僕の始まりに戻って来ただけだった
それは
実にありきたりで詰まらない疑問だ
しかし
僕の全身全霊は
そんなものから始まったのだと思うと
妙に納得もできる
そろそろ退屈にも飽きた
考えることを止めるつもりはない
けれど
自分ではない
誰かのことを考えてもいいと思う
うん
どうせなら面白いヤツを探そう
何
夜も砂浜も
まだ遠い
歩ける距離も時間も
まだまだ
たくさんある
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だからね
嘘をつけばいいんだよ
嘘は鎖でも花束で
枯れさえしなければ
指輪なんかよりも
ずっと素敵なプレゼントなのだから
嘘をつかないのは幸せだね
幸せは綺麗な死体で
見つけた瞬間
気づいた瞬間
死んでいるんだよ
当たり前だけど
いくら水をやったって生き返りはしない
正直でいたいのは分かるよ
だって
正直は
楽だもの
何も考えなくて良いのだから
隠し事と嘘は別だよ
嘘は作るもので
隠し事は無くすものだ
愛も
友情も
信頼も
最初は嘘から作られる
それが不格好だからと言って
捨てようとか
隠そうだの考えるから
それらは反対の性質になって
襲いかかってくるんだ
だから
嘘をつけばいいんだ
大切な誰かがいるのなら
大切に嘘をつけばいい
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随分長い間
私は人にモノを訊ねてきた
それも凡そ益体の無いことばかり
ある時は愛の存在を問いただし
またある時は嘘の真実性を質問してみた
考えれば
私の人生の大半は誰かへの質問を作る時間でもあった
そうさせたのは
自分だけでは答えが出なかったというのもあるが
答え以上に
自分の知りたいことの中心へ近づける
質問が欲しかったのだ
故に
私は常に質問を渇望している
他力本願と言われれば
それだけのことなのだろうが
私は唐突な質問が欲しい
狼狽たえて
新しくなくとも
混乱が欲しい
自問自答ではこの先を得られはしない
そも思考の媒体にしている言葉自体
他人の為に在るものだ
それは逆説
誰かの為に紡ぐ言葉こそ
真実
自身にとって意味のある言葉となり得る
だからこそ
願う
私に訊ねてくれ
私は私の全霊を以って応えよう
私は全ての問いに答える回答者
質問の代価は質問を以って
完結する
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最近、自分に相応しい呼び名を見つけた
「お化け」だ
誰かに優しいと思われれば優しくなるし
誰かに面白いと言われれば面白くもする
何も言われないければ
ゆらゆらと世の中をうっすら漂っている
これ以上ない「お化け」だ
もしかしたら
見えているだけで
足も無いのかも知れない
そういえば
大体のことに てごたえ が無くなって
何事も記憶に残らなくなっている
ああ
耳鳴りも随分酷くなった
ここまで来ると
教会の鐘に聴こえなくもない
そうやって
だんだん
長い時間を掛けて
だんだん
にせものの「お化け」は
ホンモノの「お化け」になってゆく
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だからね
別に話が無いってだけで
無口ってワケじゃないの
これは欠陥の話でもあるんだけど
僕には質問が無いんだ
その
つまり
他人への質問がさ
誰かの話を聞く
うん
それは良いことだ 好きなことだ
でもそこから僕が作る疑問や怪異なんてものが
幼稚で穴だらけなものだから
問いただす時間も必要もなく
自己消化してしまうんだ
必然
既製品の受け答えしか手持ちがない
自分らしく
ってコトバはあんまり好きじゃないけど
オリジナルが介在しない会話なんて
空虚で
その連続として退屈だし
別段一人なら
退屈なんてものは厭う必要は無いのだけども
他人に提供するものとしては
どうかと思うし
とは言え
世の中には正と負の計算と
同じ考え方をもって
その類の退屈と退屈を掛けたり
その為に奇数人数を嫌ったりする人達もいるし
と
ずいぶん回りくどく
寄り道も思い切り良くしたけど
これが理由
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伝えたい「想い」は
確かに
在る
僕の失敗はそれを
出会う全ての人に向けていることだ
嫌いな人が居ないと言うと聞こえは良いが
人を嫌いになれない人間には
人を好きになることなんて絶対に出来ない
自分の一生懸命に自惚れて
誰かの一生懸命を受け取れない人間に
人を好きになる資格などない
だから僕が好きになれるのは「僕」までで
伝えたい「想い」は全て「僕」で ろ過 され
薄く平べったい空気みたいなる
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月は出ていない
それが原因なのかは知らないが
酷く落ち着かない
ダークグレーの雲は
僕の脳味噌やら
そう言う
やわらかいとこだけ載せて飛んでゆく
酷く気分が悪い
空気がやけに焦げている
訳の分からない色をしたカタマリが
肺に充満する
嫌な汗が流れる
無色透明な恐怖が
僕の全身を這い回り
気付けば
僕は何かを叫んでいて
気付いても
僕は何かを叫び続けた――――
酷く疲れた
だが
とてもすっきりした
身体を抜ける夜風が心地良い
いつの間にか出ていた
蒼い月が
蒼い光で僕を照らす
今夜は良く眠れそうだ
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昔から無欲な子供だったと思う
でもそう思われるのがイヤで
誰かが欲しがるものを真似て
自分も同じ物を欲しがる様にした
きっと
どこかの時点で止めておけば
良くある平凡な話で終わったのだろう
しかし僕は
僕であることが曖昧になるほど他人と混ざり合っていて
もはや
僕という全体は僕だけで出来ていなかった
他人の目が気になる?
そうじゃない
他人の目がないと生きていけない
誰でもいいんだ
知らない誰かの目が 僕の希望になり
どうでもいい誰かの足が 僕を明日へ連れて往く
哀しいとは思わない
同じ位
愉しいとも思わない
ただ少し
面白みに欠ける繰り方だと思う