詩人:右色 | [投票][編集] |
ともあれ
スピーカーを切り裂き
入っていた
音楽を殺した
もう僕に音楽は必要ない
僕の中には既に僕の唄がある
僕の頭の中で
僕の為に
僕だけの唄が流れている
もう僕に音楽は必要ない
ギターのネックを折って
キーボードの鍵盤をバラバラにして
余剰な音楽を消してまわる
うるさい
うるさい
うるさい
うるさい
僕にとっての感動は僕なんだ
そうだ
僕は完成しているんだ
穴だらけのスピーカーから流れる
完全一致の僕の音楽
誰だ、僕の音楽を流すのは?
ああ、そうか
そういえば、そうだった
何が僕の音楽だ!
何が完成しているだ!
スピーカーから出てくる
古ぼけたCD
何とかっていうバンドの2ndシングル
笑えるじゃないか
嬉しいじゃないか
確かに僕は間違っていたけど
僕は僕以上に僕になれる音楽を知った
それでも
それはやっぱり僕でないから
僕は完成していなかったんだ
こんなに嬉しいことは
他に見つからない
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「決意」は砂のように指から零れ落ち
「退屈」はいつだって私を許容する
「なぜか?」
最初の疑問は繰り返され、その度に曖昧な答えを出す
私に何を語れというのだ?
私の中の少女は
既に
魔女と出会ってしまったというのに
どうして私に疑問を投げかける?
私は盲信したいのに
だから私は「感情」を買った
螺旋思考の最果てに住む
グリューベルンの魔女から
対価は「決意」
かくして
人形に魂は入れられた
笑うことも
怒ることも
泣く事だってできる
けれども
「決意」を失った人形は動けない
糸が無いから
(意図が無いから)
自分で考えて、行動する、意味を持てない
人形を許すのは「退屈」だけだ
誰かの「退屈」を埋める人形
「退屈」だけが人形の居場所
「退屈」こそが存在意義
故に私は「退屈」そのものだ
「退屈」に住まう魔女なのだ
決意なき選択によって「退屈」は人々に望まれ
乞われて現れた「退屈」は人々に狩り立てられる
私は
全ての感情を持ち
全ての決意を失った
「退屈」の魔女だ
私を望み
私を捨てるがいい
決意が無い私に目的は無く
過去も未来も存在しない
現在だけの私は
決して退屈しない
私を望むがいい
私は望んだものは全て叶えよう
いっそ望みが無くなるまで!
私を捨てる
私の与えるものはどんな形をしていようと
「退屈」から作ったもの
いずれ「退屈」に戻るのは当然のこと
私は目的を持たぬ故
私に退屈が訪れることは在り合えない
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君が聞くから僕は答えた
「分からない」と
僕は僕の知る限りもっとも正直な答えだった
僕の「分からない」は
たぶん
君が考えるよりずっと密度がある
知っていること
そんな砂粒を城にして
作って壊す
作っては壊す
繰り返しの果てに
やっぱり
城は砂に戻っていて
どうやって城を作ったのか
分からなくなる
簡単に言えば
つまり
そういうこと
僕は分からないんだ
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何度目かは忘れた
今日が昨日なのか
昨日が今日になったのかも定かではない
右手を頭の上に掲げ
指を一本ずつ数える
誰だか忘れたけど
こんな癖を持っている奴がいた
その光景が頭から離れない
三本目まで数えた所で
私は時間に追いついた
微かに入ってくる風が
私の輪郭を象る
そこに至ってようやく
私は何度目かの生還を果たす
安堵も束の間
次の狂気がこみ上げてくる
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たぶん
理屈でいえば
寂しくは無い
窓の外
電柱と外灯
濁ったオレンジ色
それくらいが妥当だろう
今の
孤独なんて
湿っぽい部屋は
鋭い切っ先が削げ落ちて
柔らかい
十代の頃に感じた
新鮮な青は
もう見つからない
キレイなツメと
細くて長い指
私は私の手が好き
手の平の赤い点は広がって
それが血液だと気づくのに少し時間が掛かって
やっぱり舐めてみることにした
血の味の代わりに手の平の味
驚くほど味がしない
時間が時間を押し潰してゆく
見えないから
ただの巨大になって
圧迫する
点滅しているのは
なんだろう
携帯とかテレビとか
そういうものだった気もする
遠くで電車の音
つま先は微弱な震動を受け取る
不意に笑いたくなった
でも失敗した
だから泣きたくなった
でも失敗した
鏡を見たいと心底思った
感情がゴッソリ抜け落ちた
そんな陳腐な言葉が
きっとピッタリな今の顔を見てやりたかった
時間が止まる
きっと鏡を見なかったせいだ
部屋を下から、床、壁、天井・・・・と、次ぎは降りて、天井、壁、床・・・・
繰り返した
時間が戻った時
私はベットで寝ていて
泣いていた
声を上げたかった
産声を上げたかった
感情がそうであるように
叫びたかった
けど、止めた
日常がそうであるように
私はまだ私を終えていない
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「クジラの夢を見ました」
目覚ましが鳴る前に目を覚ます
鏡を見る
10年とちょっと付き添った私の顔
今日もなかなか美人ですね
涙の痕が残っている頬に触れる
やっぱりクジラは死んでしまったのだろうか
とりあえず美也子に会ったら聞いてみよう
「クジラの夢を見ました」
昨日の夕食は何だったか
魚は食べていない気がする
ボーっとする
メガネを掛けてからも
ボーっとする
不意に
クジラにメガネは似合わないと思った
美也子さんに会ったら同意を求めてみよう
「クジラの夢を見ました」
あー
ダリー
ダリー
サルバドール・ダリー
なんちゃって
馬鹿なことを考えてしまった
美也子のせいだ
当然
恥ずかしさがモノスゴイ速度で追ってくる
とりあえずシーツを被って現実逃避
でも
夢の入り口はシャットダウン
まいったな
全然眠くねぇよ
寝起きから絶対絶命のピンチだぜ
学校に行けなかったら
やっぱり美也子のせいにしよう
どう考えても
あのクジラの絵が悪い
「クジラの夢を見ました」
夢痛
目が覚めても覚えていて
頭の中のだいたい三分の一くらいを埋めてしまう
そんな夢をユメイタって呼んでる
だって痛いだよ?
魂の三分の一くらいを夢に置き去りにしてしまったみたいでさ
引き千切られた魂が再び一つになろうとして
引っ張り合ってものすごく痛いんだ
でも今朝のはあまり痛くない
きっとクジラが食べちゃったんだね
夢の中で魂(わたし)を
美也子ちゃんに会ったら謝ってもらおう
『クジラを見ました』
見つめた天井が空に見えて
シーツの触感は海になって
溺れかけてから
ようやく自分の部屋だと思い出す
カーテンを開けたいと思った
空が見たかった
ベットから這い出して
転んでゴロゴロ窓際まで辿り着く
空を見た
一匹の巨大で広大なクジラが空を泳いでいる
こっちを見ている
だから見つめ合った
世界で唯一
今この瞬間しかクジラを見ることは出来ないけど
やっぱり
空にくじらは居て
みんなは知らない内にクジラの夢を見る
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小さくて緑色のアマガエルを
手のひらに乗せる
良く見るとグロテスクだけど
良く見ないからカワイイ
アマガエルの背景になっている
少しだけ遠くの景色を見て
少しだけ昔を思い出す
小さい頃
カエルが苦手で
アマガエルなんかは見ただけで泣く始末だった
それなのに
今はこうして手のひらの上に乗せて
別に絵を書くわけでも何でもないのに
じっくりモデルにしている
あの頃
なんでカエルが苦手だったのか怖かったのか
忘れてしまった
その忘却は寂しいことなのだろうか
私には分からない
簡単な答えなんて要らない
一緒に考えて
分からないって言ってほしい
アマガエルは何も言わずに去った
一人になった私は
この気持ちを
誰かに伝えたかった
懐かしくて寂しくて、でも不思議と嫌じゃなくて・・・
私は久しぶりに
携帯電話の電源を入れた
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簡単に手に入るソレはなんと言ったか。
食べるだけなら、それでいい。
とにかく、目に映らなければ、どうでもいい。
心が少しだけ溶けて、影と混ざる。
境界は黒だ。
色だけはハッキリ見えるし、言える。
だからといって、何かが変わる訳でも、誰かが救われるワケじゃない。
ソレはだんだんと曖昧になってゆく。
たぶんムシじゃないかな。
虫でも
無視でも
無私でも
なんでもいい。
ああ、でも、そんな簡単な構造だったかな。
影の中に心臓が出来上がる頃になって思いつく。
後悔した。
仕方が無いので、諦めた。
ともかく。ソレはアレだった。
好きだって、言った。
確かに、言った。
千までいくと大げさでウソだけど。
百くらいなら軽く、言った。
影に心臓なんて無かった。
倒れた言い訳がしたかった。
忘れようとした。
忘れようとしたことを忘れようとした。
忘れようとしたことを忘れようとしたことを忘れようとした。
立って居た場所はそんなところ。
安全で安心だと思った場所は、一つ思い出すだけで脆くも崩れ去る。
でも、よかった。
心は思った。
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ケータイを開く時のあの小気味の音が好きで
何度か繰り返したりするけど
今はやらない
適当なキーを操作して
真っ黒な画面に
道と電柱と壁の風景が浮かび上がる
人はいない
いつだったか忘れたけど
そんなに前のことじゃなくて
自分で撮影したってことは覚えてる
最初に設定した時はとても良いと思ったけど
改めて見ると根暗な感じがする
何となく不安定になる
不意に青空や満月が見たくなって
写真に撮りたくなって
待ち受け画面にしたいと思った
でもやらない
くもっているからね
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晴れているのか
曇っているのか
どちらとも言えない そんな日に
私は彼と雲を見ていた
引き伸ばされてゆく空と大地が
どうでもよくなって来たあたりで
――時間って雲みたい。
彼は当たり前のように呟き
――うんざりだね。
私はうんざりする
時間が雲を運ぶのか
雲が時間を形どっているのかは分からない
私の目には
雲と呼ばれる巨大な無意味が流れているだけ
ただ彼だけが
雲と同じ時間を感じている
私には
それが少し寂しくて
少し羨ましい