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右色の部屋


[107] 言葉を探す旅の少年:イディオ
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(私は少年に尋ねた)

うん、僕はね

いつだって単純でいたいんだ

複雑なことを言うつもりはないし

言いたくない



だから



名前の無いものに名前をつけて

名前しか無いものを文章にするんだ



(少年は続けて語る)

今まで、『嬉しい』には、それぞれ三百六十七個の名前を

『楽しい』は、四千と六の名前を付けたんだ



名前を付け始めたのは

もちろん

この旅に出てからなのだけど

やっぱり

一つとして

同じ『嬉しい』も『楽しい』も無かったよ



(少年はその小さな体には不釣合いな程大きなカバンから、何冊もの古びたノートを出しては嬉しそうに語り続ける)



僕はね

言葉を探しているんだ



名前を付けるため

文章を綴るため

いつだって

一番単純な言葉で

僕の感じたことを伝えるためにね




(去り際に聞いてみた、いつまで旅を続けるのか、と)



そうだね

きっと僕が大人になるまでだよ



僕が大人となって

僕の感じたことを全部

話したいと思える相手と出会って

一生を掛けても

終わらない話を始めたら

僕の旅は終わる



でもそれは

きっと

僕の旅の終わりであって

僕とまだ見ぬ誰かとの旅の始まり、なのでしょう



(そう言って少年は私の元から去って行った

少年は今日も歩いている

言葉を探しながら

名前を付けながら

まるで

唄っているかのように

ふらふら

ゆらゆら、と

2009/05/15 (Fri)

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