詩人:右色 | [投票][得票][編集] |
今にも雨が降り出しそうな天気の中
子供に出会った
私はその子供と何の関係も無いけれど
ちょうど私も子供も一人きり
ちょっと与太話に付き合ってくれるかい?
そうだね
雨が降るまでの間でいい
『――いいかい?
ファミレスで出される使い捨てのタオルで芸術したり
同じ電車に乗ってる他人の人生あれこれ想像したり
そういう下らないことでもね
自分自身に意味があって、必要ならば
迷わずやるべきなんだよ
何
他人の目なんか気にする必要は無い
あれは何かと引き合いに出されるシロモノだけどね
面白いほど何もしてくれないんだよ
覚えておくといい
ルールは自分で作るものだ
常識なんてのはただのテキストさ
――ところで、私の言ってることは分かるかい?』
子供はこくりこくり頷く
『それはいいね
世の中には賢いと呼ばれるものが塵芥だけど
本当に賢いと呼ばれるべきなのは
人の話を聞ける
そういう人間だけなのさ
――あぁ、ところでチョコ食べるかい?
ちょうどポケットに入っていたんだ』
子供はこくりこくりと頷き
チョコを頬張る
『うん、いいね
世間一般では
他人から貰ったものを軽々しく食べるな、と教えているようだけど
とても閉鎖的な考え方だとは思わないかい?
そういうことだから
この国の人間の笑顔は信用されないんだ
君は黒人の笑顔を見たことがあるかい?
彼等はね
私達の感性から言うところの
十年来の親友に向けるような笑顔を誰にだってできるんだ
それは大きな違いだよ
――ところで君は笑えるかい?
こんな風に』
子供は表情を変えずに見つめ返してくる
雨が降ってきた