詩人:右色 | [投票][得票][編集] |
大きなヘッドフォンを頭にのせた
小さな旅人は
けれども
唄いながら
森を歩く
小さな旅人の頭の中にはたくさんの唄があった
大きなヘッドフォンは
頭の中の唄を逃がさない為にあった
小さな旅人は唄い続ける
その言葉の意味は分からなくても
青い果実のような感情が
ゆらゆらと
風に揺られるように唄う
大きなヘッドフォンを頭にのせた
小さな旅人は
けれども
唄いながら
海を渡る
潮風が喉を焼き
波の音が小さな旅人の声を消してゆく
小さな旅人は唄い続ける
自分の頭の中にある唄を残らず唄いきる為に
その唄を唄いきれば
大人になれると信じて
大きなヘッドフォンを頭にのせた
小さな旅人は
けれども
唄いながら
砂漠を越える
一歩一歩懸命に足を踏み出す
足跡は残らない
小さな旅人は唄い続ける
大きなヘッドフォンからは唄は流れないけれど
小さな旅人の全身に唄は流れていた
やがて
小さな旅人は唄となり
遠い遠い
未来
小さな旅人の唄は
小さな少年の小さなヘッドフォンから流れていた