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緋文字の部屋


[140] ケトル
詩人:緋文字 [投票][編集]

しゅん、しゅん、しゅん

ストーブの上の
笛吹きケトル


今日は なにが
あったかね


くすんだ白の割烹着
せわしい背中を
見ていると
舌が滑らかにならなくて
視線はいつも
湯気の向こう


しゅん、しゅん、しゅん


たいていケトルの隣には
大きなお鍋が置いてあり
早々 夕餉を告げたけど

アルミホイルに包まれた
ミカンがたまに
置いてあり

冷たいまんまが
美味しいよう、
温くて苦くて
わざわざ不味い

本当は
すこし 楽しみで

芯から冷えた
手だから素手で
触ってよこして
平気なのでしょ

風邪ひかないようにって
食べたんだっけ



しゅん しゅんっ
しゅん

カチリ、
火を消した
湯気の向こう

彼のひとの顔
ちらりと見えた

2007/12/21 (Fri)

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