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色彩の部屋  〜 新着順表示 〜


[28] ボート、或いは空白を眺める男
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昼下がりのある日、彼はいつもの公園に居た。その公園には、まあまあの大きさの池があり錦鯉や亀に水鳥など、どこにでもいるような生き物達が棲んでいた。そこは春になれば沢山の桜が咲き良くも悪くも皆の話題になる様な公園だったが平日の、秋に差しかかろうとする今の季節では人もまばらに感じられた。公園の出入り口に程近く、彼がいつも座っているベンチには何人かの老人達のグループが座って居るのが見える。彼等は菓子や水筒などを脇に置いて鳩や鯉にしきりに餌をやったりしていた。隣には「園内の生き物に餌を与えないで下さい」と書かれたくたびれた看板が見える。端の方のベンチが一つ空いていたが彼はそこに座る気分にはなれなかった。仕方無く他のベンチを探す事にした彼は、自動販売機で飲み物を買い、池の反対側へ渡る桟橋に差しかかった。橋の中腹でアメリカ人風の男と日本人の女が長々と唇を重ねている。その横を子連れの母親がいかにも決まりの悪そうな顔で通り過ぎて行った。それを見た彼はレディーファーストやフロンティア精神の矛盾について少しばかり考えていると、その内に橋を渡り終えていた。橋を渡った先には貸しボートの店やちょっとした売店なんかが見える。そこを通り過ぎると反対側同様に池に沿ってベンチが並んでいる。彼は景観の良いベンチに座りたかったが、良さそうな場所には皆先客がおり、その殆どは若いカップル達だった。まだそこそこの時間だというのにこれだけのカップル達が公園にはいるのだ。彼はまた園内をしばらく歩かねばならなかった。その間彼は何人かの女友達の事を思った。彼には特定の恋人といえる相手はいなかったが何人かの女友達がいた。彼は時折、彼女達を公園に行こうと誘ったが、皆公園には行きたがらなかった。ひとりは公園には虫がいるから嫌だといい、ひとりは面倒だといった。そして彼は彼女達を公園に誘うのを止めてしまった。そんな事を考える訳でもなく考えながら歩いていると適当なべンチを見つけたので彼は座る事にした。彼のベンチと池との間には桜の木がちょうどYの字状に生えており、手入れのされていない枝が池への視界を遮ぎる形で垂れ下がっている。おまけに地面は少し湿っぽかったし、彼の左足のすぐ近くには土が盛り上がった土竜の巣まであった。そこはお世辞にもロケーションが良いとは言いがたいベンチだったが腰を下ろすとともかく彼の気持ちは落ち着くのであった。

2011/08/14 (Sun)

[27] 死の影
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多くの想像力が愛へ帰還してゆく中

失われた者達には死の影が憑き

タフな奴等は構わず再び探すだろう

下らない選挙演説が

どこにも残らずすり抜けてゆく

ロックンロールみたいだ

死を美徳にしてしまうなんて

なんて愚かな事なんだろう

なんて厚かましい事なんだろう

死はもはや完結して

完全にくたばっていると言うのに

2011/03/08 (Tue)

[26] blank
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消え去らぬ

ニヒル抱えて

空白ながら早朝に

優しくなる為の人生だと

優しさとは孤独の事だと

越えられない空虚の壁に

へばりついている

受け入れてしまえば超人になれると

誰かが言ったが

そんな事はなかった


2008/09/04 (Thu)

[25] 5月のニヒル
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淡々としたぐしゃぐしゃが

優しさみたいにやってきて

平和の影で混沌が

日本映画みたいに空虚する

綺麗な景色は綺麗だが

綺麗な景色は綺麗だと

十代にして彼は深夜徘徊の達人になった

2008/05/13 (Tue)

[24] 曲がっても曲がってもの街で
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どっかの誰かの思い出が

残骸になって

バラバラ空き地に散らばっている

少しだけ目をやってすぐにサヨナラ

五線譜にしたらつまらなそうだとか

割り切れるならそれでいいから

Hello 東京

また今日が流れて

代々木三丁目の裏路地を

ぶっ壊れながら

迷子になっていた

2008/04/24 (Thu)

[23] water & nihil
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海底神殿に行きたいよ

沈み込んだらその気持ち

空白に放り出された体

気持ちは前に行こうとする

浮つく夜の住人達

時々好きなモノが信じられなくなる

海底神殿に行きたいよ

冬の空に似てるかな

洗濯機が壊れて

電化製品が微かに渦巻く音を聴いた

洗濯機が壊れて

電化製品が微かに渦巻く音を聴いた




2008/04/14 (Mon)

[22] 都市の風景
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正史が21世紀を迎えたばかりの頃

彼女は完全に消える方法を考えていた

残骸 塵と木っ片や人間

いつかみんなも死んでしまって

誰もが君を忘れても

小さな細胞のどっか

遥か上空大気の色や

深海太古の生物達

地底に暮らす土竜になって

貴女は存在し続ける

例えば僕の足音さ

完全な消失が在りはしないように

完全な静寂など存在しない

折り重なった雑音の波に

身をまかせるのが人生か

折り重なった雑音の波に

身をまかせるのが人生なのか


2008/04/12 (Sat)

[21] ルサンチマンの午後
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もう少し太陽が欠けたら

河原を散歩しよう

あの哲学者さんもお師匠さんも

愛と風景だけには志を奪われただろう

ライン川に落っこちた

主帰らぬ

空っぽ小城

射抜く的無い

古びた空砲

ウォークマン聴きながら歩く

ルサンチマンの午後にただいま



2008/04/04 (Fri)

[20] 葬式
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葬儀場

誰かの涙

小さな石灰色

大きな箸



骨壺

坊主の話

香典

寂れた田舎の公民館

冷めたオードブル

喪服だらけの酒席

親戚達の赤い頬




2008/02/05 (Tue)

[19] 孤独な人達の音楽
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頭の中にはこんなにも色んな事が渦巻いているけれど

現実には何も無い

この世界は巨大な空白

何がどのくらい出来たとしても

半分子供のまま

想像力のベクトルが変わったって

僕には孤独な音楽しか残らない

それでも

生み出す事と撒き散らす事が違うというのなら

なぁ

孤独な人よ

孤独な人達よ

バッハは神にそれを捧げた

僕はあなたに捧げよう

これから僕はピアノを弾くから

こんな空白だらけの世界のどっかで

あなたにだけ届けばいいと思う

あなたにだけ届いて欲しいと思う


2010/11/12 (Fri)
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