詩人:りんくす | [投票][編集] |
しばしそのまま固まっていたふたりでしたが
きこりはふと泉の精が
大事そうに抱えてるものが
自分の投げ入れた鉄の斧であることに
気付きました
きこりは無言で
その斧を奪い取りました
泉の精は腹が立つというよりは
きこりの傍若無人な態度にショックを受け
走り去ろうとしました
その腕を強引に掴み
きこりは黙ったまま
乱暴にドアを開け
無理やり泉の精を中に押し込んで
後ろ手にドアを閉めました
泉の精の瞳から涙が溢れました
しかしきこりは泉の精を椅子に座らせ
優しく腕を取り
手当てを始めました
斧の先が泉の精の左腕に当たって血が流れていたのです
泉の精は初めて自分が怪我をしていたことを知りました
─そんなに痛かったのか?
きこりが顔も上げずに呟きました
泉の精が泣いたのは
怪我が痛いからなんだと
勘違いしているんだなと
泉の精は思いましたが
─…うん
とだけ答えました
手当てが終わって帰ろうとすると
きこりが家の壁から
チョコレートを一枚剥がして
泉の精に渡しました
─これ…お駄賃
泉の精はにっこり受け取りながらも
─ガキのお使いかよ…
と突っ込まずにはいられませんでした
それをきいて
きこりがクスッと笑いました
初めて見せた笑顔は子供のような表情でした
─また来てくださいね?
泉の精が言うと
─行かねーよ
ときこりは明後日の方を見て答えました
─かわいくない!
泉の精は思わず笑いました
次の日泉の中で本を読んでいると
水音がして
見覚えのある鉄の斧が沈んできました