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桂林の部屋


[18] 慰問袋から始まった恋に
詩人:桂林 [投票][編集]

南方にまわされる事になったんだ



あなたからの最後の手紙は 私たちを永遠に引き裂くこととなったのですね

愛しています誰よりも 愛しています心から

声すら聞いたことがないあなたを わたしはお慕いしているのです

寝る前には君の写真におやすみを言うよ

あなたからの手紙が届くたびに 逢いたい気持ちが膨らんでゆく

国に戻ったら真っ先に君に逢いに行くから 僕と結婚してはくれないか

そう 何度も手紙には書いてあったけれど

でも そう 分かっていたの

あの時代なのだから


あなたから手紙が途絶えてから1年後 日本は戦争を終えたのです

あれから私は ずっと待っていました あなたがいつか私の名を呼んで下さるのを

もしかしたら あなたはもう・・・

何度もそう頭をかすめる

でも私はずっと待っていたかった ずっと ずっと・・・



ほどなく私は結婚することに成ったのです 私のことを大切にして下さる優しくて素敵な方です

あなたとの思い出は全て 燃やしてしまった

彼には知られるのが恐かったんですね
 
それに

あなたの事は過去の事と 私はそう思うしかなかったのですから




今はおばあちゃんになり 主人が亡くなってからもう20年になろうとしています

でも私は寂しい訳じゃない

生まれたばかりのかわいいひ孫だっている


でも

いまでも

戦争の頃の恋物語などを聞くと あなたを思い出してしまいます


今は思うのです 逢えることならすごく逢いたい 逢ってそして思い出を語り合いたい


どうして

1通だけでも残さなかったのか 悔やんでも 悔やみきれない


どんなに思っても 逢えはしないのに

手をあわせることさえ叶わぬ願いと知りながら



私は今も逢いたく思っているのです







2005/10/19 (Wed)

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