詩人:老女と口紅。 | [投票][編集] |
一夜は旅の如く
もぅ幾日
過ぎたのだろう
夜明け前には
辿り着けるのか
長い道のりを‥
ようやくここまで‥
荒い息づかいは
誰の為でもなく。
口の渇きは
重ねたことで
潤いを取り戻す。
這うように
ゆっくりとも
その歩みは堅実に
満月の照らす
一つ山を越え
また一つと
山を越えた。
滑り落ちる様に
ゆく先の谷は深くも
緩やかな大地は温かい。
ようやく
土手の草むらを
掻き分けて
見つけた道筋。
満ち足りぬ
時を待たずに
重い岩戸が開かれた時
枯渇した滝は溢れだす。
旅人は
歓喜を歌い喜びに打たれ
酒を飲み無心に踊り狂う。
向かう所はただ一つ
光りさえ届かぬ
その洞窟のその先へ。
果てしのない道は
ただいたずらに
体力だけを奪い取り
どん欲に
しがみ着くのは
昇り詰めたこの頂上。
解放された精神は
疲れ果てた肉体と
静かに静かに横たえて。
一度の深呼吸を
白々と明けてゆく
夜と引き換えに
とても深い眠りを
とても深い眠りを手に入れ
安らげる旅人は安堵を枕に
この
一夜の終焉を
おごそかに
向かえ入れた。