詩人:桃井 美結那 | [投票][編集] |
何気ない、些細なことで口喧嘩。それは何処の家庭でもごくごく普通の、当たり前のことだと思う。
いつからだろう。『その子』が「『ココ』は普通じゃない」って思い始めたのは。
そう、あれは小学生の頃、友達の目の前でいきなり胸ぐらを掴まれ、般若の様な顔で思い切り怒鳴られた。友達は怯え、知らぬ間に荷物を持って逃げる様に帰っていた。
固く握り締めた拳を頭や顔やお腹に何度も何度も入れられた。それは“叩く”ではなく、“殴る”だったんだ。
それが始まり。
時には足で蹴られたり、布団叩きで叩かれたり、髪を引っ張られたり、水をかけられたり、部屋をめちゃめちゃに荒らされたり、首を絞められたり、暴言を吐かれたり、思い出すだけで気分が悪くなる様なことが色々あった。そうされる原因は口喧嘩がエスカレートして・だったり、単なるやつあたりだったり。それは義務教育が終わる位迄、度々起こった。
『その子』には今でも忘れられない言葉がある。
「死ね」
「殺してやる」
『自分を造った人』にそんな言葉を浴びせられたらどうだろう。どんな気持ちを、思いをしただろう。それはきっと、心が痛いとか辛いとかそんな言葉達をいくつ並べても足りない、言葉じゃ表せられない。
「そうか、『私』は要らないんだ。」
そんなことを繰り返し繰り返し心の中で呟いた。
何度か殺意も湧いた。あの男の口を、拳をもう二度と使えないようにしてやりたかった。でも『その子』にはそれを実行出来る筈もなかった。理由はふたつ。ひとつは臆病だったから。やり返したらその倍以上の力が返ってくる。それが堪らなく恐ろしかった。もうひとつは、ふたりの関係。やはり『自分』が『その人』に手を挙げるのはイケナイコトだと思った。
いくつかの季節が過ぎて、『その子』はもうすぐ『ソコ』から解放される。
もう、あんな思いはしなくていいよ…いいんだよ。だから、もう夢の中で泣いたりしないで。私の胸でゆっくりおやすみね。
ねっ、あの頃の小さな私…。