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遥 カズナの部屋  〜 投稿順表示 〜


[173] 眩む
詩人:遥 カズナ [投票][編集]


















文字通りの羅列に
渇いた喉が咳き込む

遠い過去の
高い空のどこかで
誰かが
たったの
ボタンの
ワン、プッシュだ

視力が
張り裂けしまうほどの
閃光が全てを呑み込んだ

なにも
わかりたくない

なにもわかりようもない

未来永劫に

どうして
そんな事に
なってしまうのか

















毎年
3万人がこの国では自殺する
















kikaku2013 「白」

2013/08/07 (Wed)

[175] 前売り券
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雲ひとつ無い
真っ青な空を背に
真っ赤な観覧車が
ゆったりとした速度で回る
スクリーンにも
あなたは映っていた

憧れを教えてもらった妬みの時から
うれしさをやどした痛みを抱えて
美しさを、今も思っています

別れが、出会いだったように
やさしいくちずけが
幾度ともなく交わされては
遠ざかってゆく

ただ
ただただ汗ばむ手に握りしめたチケットのような
真新しい香りと
早すぎる時刻に
劇場の前を彷彿とする

世界のどこかを廻り
進んでいくあなたを探し
一呼吸ごとに息を吐き
小舟のオールを漕ぐ方角へ背中をむけて前進していく不思議さが
あてどもなく開いていて
それが
今も、続いている

















kikaku2013 「朝」

2014/11/28 (Fri)

[176] 記憶の匂い
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ブリキの玩具の匂いは鉄の匂い

アジサイの鉢植えの匂いは土の匂い

駄菓子屋の冷凍庫の匂いは氷の匂い

コロコロした子犬の腹の匂いは砂の匂い

赤に黄、青に白に緑
ダイヤブロックの匂いは
プラスチックの匂い

バラバラに分解した
ラジオの基盤は
ハンダの匂い

ひどい火傷をして
病院に迎えにきてくれた
抱きしめた匂いは
母の匂い

2013/08/22 (Thu)

[177] 脳内解雇
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真っ赤なコウロギが
飛び跳ねた

蹴られた目蓋の感触の延長線に
瞬く、薄い羽を境に
こちら側と
むこう側で
互いに見る
来れたものと
来れなかったもの

新しくなれない朝
外れ落ちたキャップ
使い手のない鎖

空に向かって血が滴り落ち雲をめくりかえすと
骨肉のような
あだがさらけ出される

そんなわけがない
空は
なんにも知らないのだからお互い様だ















2013/09/26 (Thu)

[178] 梢(こずえ)
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汚れて
手に馴染んだ
野球グローブの先から
よじ登り
土から這い出た
蝉の
抜け殻を肩に

上へゆくため
噛みしめてきた時を
土臭い体の隅々に
少しずつ蓄え
ついにそれを糧に
純白の新しい体を
真っ青な空を背に
さらけ出した

やがて
しっかりとしたタッチの
鉛筆デッサンのような輪郭が
堅い意志を刻みはじめる

ナニモカモミナ
アタラシイ

蝉はそう鳴く

ビーズの黒い目玉に映りこんだ景色が
カメラの
シャッター音くらいに
鮮明に記憶に蘇る

薄く透明に開かれた羽の隅々まで
しゃんとした呼吸の道筋が行き渡り
一枚一枚に
指に摘んだ感触があり
過去か今なのかも
もうない

ナニモカモミナ
ナツカシイ

分かっている

何の理由もたず
缶切りみたいにその事の為だけに
こうしてあり
たとえ
他になんの役にもたてなくても
万全の準備と真剣さを
誰かに知られる事に
慰めを求める事にすら
余力を残さなかった

たとえその時
弱音を吐いてしまっていたとしても

もう、たどり着いている


















(今は亡き同僚であり釣友、大城に捧ぐ)

2013/12/14 (Sat)

[182] 明日から
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俺の頭には
お前が
めんどくさいから
オナニーした

そしたら
臭くてだとか
理由が生まれて
旅という
暖かい理由が包み込んだ

地図に引いた線のペン先が机からはみ出して落下
頭に直撃
頭蓋骨が陥没
ちょうどうまい具合に
窪みに雨水が溜まり
腐った雨水にボウフラがわいた

そこへ
浮きを投げ入れる
何でもいい
釣りがしたい

2014/02/11 (Tue)

[183] 風は吹く
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もこもこだねワンワン
はなクンクンとして
ピチャピチャとミルクを舐めたなら
まんまると仰向けた
柔らかいお腹がパンパンだ

扉をノックする音
ぴんと立てた耳
そして開いた
扉の向こう側の眩しさ

ほら、僕が立つと
君も立ち上がる
もう新しい旅立ち

こうしてボール遊びをしていても
君のいる理由を推し量る事なんて
誰に許されるだろう

風に
もしも姿が与えられたなら
音も立てず
君みたいに
駆け抜けてゆく

本能って
ビニール袋にくるまれた
標本なんかじゃあないはずさ

君のいる理由を推し量るなんて
誰に許されるのだろう
それが始まり

出会いと別れ
涙と笑顔
どうする事もできない遠い夜

君の名を呼ぶ気持ちを
僕の最初の子供の名前に刻みつけた

小さな始まりだとしても
雄々しく猛々しくあっておくれ
どうかその敏感でしっとりした鼻先が凛々しく
追いやられていく夜のとばりの方ではなく
夜明けの方を目指しますように

そしてその方角をこそ
『明日』とよぼう














2014/11/17 (Mon)

[184] 
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自然に受け取れる
「神さまがそれを自分の分として、取り分けて下さっているはずだから」と、彼は話し
空洞化した心のその部分の形を思い巡らしていた

琥珀色の長い髪を
潮にくゆらせるように泳ぐ人魚が
珊瑚礁の片隅に挟まったガラス瓶を見つけた
彼女は
小指の爪を前歯で剥がしとると
それをガラス瓶の中へ差し入れ
血の滲む指先で
潮の流れにそっと放つ
夕暮れの
薄暗い海底の物語
彼女は誰かを待っている
おとぎ話の世界は狭すぎて
押し潰されそうになりながら
はだけた胸を抱きしめた

風が吹くたび
彼の想像の隙間を易々と時はすり抜け
その扉の向こう側への期待は揺らぎ
彼女を何の理由にもしたくなくなっていった
実際、彼の前にあるのはただ真っ黒なだけの小さな穴であり
何かをさし込もするほどしらじらしさが見てとれ
答えのある筈もない不確かなものに形を与えようとするような
ひとりよがりは
いよいよ薄れていった

狭く難解な構造を幾重にもおびているその穴に
彼は
やたらと「愛」だとか「権利」だとか「自由」だとか
そんな言葉をタバコの煙りみたいに吹き込みながら
結論を実感として噛みしめたがった

この
彼の登る鉄筋コンクリートの建物の階段は螺旋で
カゴ車を回しながら走るしか脳のないネズミのように何が分からないのかさえ分からない渦となり
それは別に悪い事では無かったから
分かる必要が無い事が最大の残酷な滑稽さで
誰も、どんな感情も持てなかった

チャリンチャリンとした
金属の音に敏感に反応すると
見れば、ひどく太った男の腰に不必要としか思えない数の鍵がぶら下がっていて
こちらが疑うのなら
満腹の腹を裂いて内蔵や下腹部でさえ切り落として見せ
血みどろにさらけ出された事への
こちらの笑顔を
さぞかし満足したがったっていた

彼も
いよいよ狂喜したかったが
全くでもなくとも
他人事をなんとも容認できるような内面になってゆく
はなはだ健やかに睡魔に襲われ眠りにつく頃
そんな程度の幸せが
鍵はいらなくなった理由としてしまわれた
その頃には
人魚はついに押し潰され
こまぎれになった肉のかけらは潮に漂う
小魚たちは
ついばみもしなかったがそれには
永遠の命がやどるのだと言う

2014/04/23 (Wed)

[185] 成層圏
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方眼紙の青いうっすらとした線が
新しい匂いの姿をしてくれているので
空を感じられる

腰掛けに
ちゃんと座ってみると
窓から射し込む日差しに
切り落とされた指先が
影の方にある

消しゴムの粕が
鉛筆の匂いに絡まり
ポロポロと散らばっている
そんなような曇

大きな三角定規に沿って
ひこうき雲の真っ直ぐな線を
ゆっくりと
落ち着いて
引いてみた

後からに
なってしまったけれど
できるだけ
左右均等の翼になるように
しっかり折った紙飛行機を
かすかに
方眼紙の香りのする鼻先あたりから
後ろ姿を見つめながら
真っ直ぐに窓の外へと
解き放つ

本当に気持ちが良い空へ












2020/07/04 (Sat)

[186] なりわい
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確かな事はいつでもこの手のひらの中で感触となって分かっていて
ガサガサとした、鋳造したての硬い金属を
それこそ舌で舐めても気持ちのよい硝子鏡の表面へ近づけていく
高速で回転する工具は
気を抜けば技巧物を弾き飛ばし、目にでも当たれば失明させるだろう

学校は夏休みだ
今年は家族でカヌーに乗る予定でいる
キャンプ場にテントを張り夕暮れはバーベキューをしながら迎えたい
日がくれたらなら、花火をやる
子供達のはしゃぐ様子が目に浮かぶ

宝くじが当たるといい
マンションのローンを返済して
車も欲しいし、旅行もいい
とにかく贅沢がしたい

金属は研きあげる途中途中、持ってはいられないほど高熱になる
素早く、水桶けに突っ込み「シュゥッ…」と水蒸気があがる

確かな事は
いつもこの手中にあって
硬く、熱く、そして
そのしんどさに
実感がある

2018/12/12 (Wed)
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