詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
きれいだな
剥がし忘れて
よれよれの絆創膏が
とれて
傷口が
すっかりと治ってた
きれいに
部屋干しばかりして
臭かった衣類も
煮沸して乾かすと
いい匂いになった
すがすがしい
ものだよ
なにもかも
たいしたこともなく
なにもかも
私が
まわりくどく
してしまっていた
だけだから
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夕焼けは
例えるなら
水蜜桃の甘さのよう
母の背中の匂いのよう
失われた
大切な手紙のよう
それらが
すべすべとした
一枚一枚の
いきいきとした花びらとなって
くっきりとした
両の手いっぱいの
掬い上げた感触を
力いっぱい
頭上へと放り上げると
全身に香りいっぱいで
はらはらと
ふりそそいでくれるのに
再び
掴もうとしても
すりぬけていくような
そんな
しかたのない
気持ちになる
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蝶を捕まえてみて
逃してやると
その羽の
鱗粉が細かに
指先に残っていて
こんなふうに
細やかなものなら
羽ばたいている最中にも
大気に僅かに
振り撒かれているのだろう
ついでに
持っていた地図を
何片にも破いて
破いて破いて
口に入れて食べてみる
味はしない
その後に
人差し指を舐めて
鼻先で匂いを確かめ
そっと宙へとかざすと
ほんの少しだけ
舐めてやっただけなのに
風で乾いていくのが
よくわかる
そう言えば
あれが蝶の
鱗粉の
味だったのか
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黄金の折り紙で
何を折ろうか
貝がいいか
蟹もいい
タコも
魚も
黄金色の折り紙は嗅ぐと
一万円札の匂いのよう
日差しにかざせば
眩しすぎて
よくわからない
それがいい
なんだか
いい
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物語は
誰の手のとどくところにも
きっとあって
それは
誰の事も
見限ったりは
しない
机からこぼれ落ちて
気づかれないままの
消しゴムですら
落とし主に
気づかれなくとも
間違いなくそれは
そこにあり
消えたりは
しない
消しゴムは
持ち主を
置いてきぼりにできず
始まりから
仕事をしている
胸のすくような
潔い
終わりたくない
終わりに
奔走する
掃除機にでも
吸い込まれたか
あるいは
猫が咥えて
とんずらしたか
いや
消えたりは
できない
消すのが
役割なのだから
物語を
消してしまうかどうかは
持ち主が
決める
役割なのだから
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考えてしまう
しょうがなさ
ああであれば
もっと
こうであったなら
もっと、もっと
考えて、考えて
考えてはみても
抱き締めて、抱き締めて
毎日、毎日
考えながら
過ごしてみて
それよりもなにより
やっぱり
好きで、好きで
しょうがない
詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
切手に薬きょう、蝉の羽
朝顔の種にハーモニカ
入れすぎて
ぱんぱんの
ファスナーのついた
筆袋を開いて
中のものを
じゃらじゃらっと
机にふり落とす
思い出してみれば
こんなもんじゃない
もっと、もっと
たくさん、詰め込んできた
サンゴと虹
おが屑やら豆電球
探検をした下水道を写したフィルム
ピアノの鍵盤
春や秋の余韻やら
月とか
ぐるぐると星座表を回す
真っ赤な現像室
ハンドルを無くした水道の蛇口
原付きとスタジャン
色とりどりの
バースデーケーキのロウソク
ダイヤル式電話の117の時報
菜の花の栞を差し込んだ
今しがたに
夏にも冬にでも
させられ
海へ飛び込んだ
星にも、ゴキブリにだって
なれる
すべからくは
一本のペンを
拾う為に
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引っ張られる方が下で
真逆の方が上
たったそれだけのこと
分かっていることは
ちょうど
がらんどうのようじゃあないか
目ん玉が飛び出た後から
脳味噌を垂れ流し
おかれた頭蓋骨の
さくさく
さくさく
踏みしめてきた
砂地
土星の円盤の渦
理不尽さの顔は
見飽きるのには
あまにも
いとまがない
いつか
動画再生出来る
銀河の絵ハガキの
表側の真ん中に
名前を書いておいて
おくれ
さくさく
さくさく
遠心分離して
満開に至れ
詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
幾百億光年彼方の
写実
あまたの星屑の
点描画
渦巻く銀河の砂浜に
横たわり
そうした砂粒達にとりまかれた
頬や胸、手肌の肌触りを
追憶したい
ペタ、エクサ、ゼッタ、ヨッタ
数に上限がないように
ナノ、ピコ、フェムト 、アト
数に下限もないように
意味を残すと言う意味で
人は神には
およばないけれど
その距離は
いつか、きっと
推し測れる
そして
それは
そんなに
とおくも
ちかくも
なく
きっと
誰にでも
寄り添っていて
それは死かもしれず
誕生なのかもしれない
ただこうして
手のひらを
握りしめてみても
なにも、いや
指先の1本、1本が
人差し指やら薬指の爪先が
手の中でくい込んでいくと
「私には私がいる、私には誰よりも
なによりも、まず私がついている」
この実感がある
私はこれをひらいて
解き放つ
たとえなにも
残らなくとも