ホーム > 詩人の部屋 > 遥 カズナの部屋 > 新着順表示

遥 カズナの部屋  〜 新着順表示 〜


[193] 蝸牛
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

身を閉じた
蝸牛よ
なんでおまえは
そこにいるのか

よりによって
そこは
窓を閉じてしまえば
潰されてしまう
アルミサッシの額縁の内側の隙間だ

ぼんやりと薄い殻の中が透けて見える

小便をしながら
窓から覗く
ブーゲンビリアを背に
広がる青い空を見上げて
気持ちが良いのに

おまえはそこにいる

ビールの空き缶で
もう、ゴミ箱も満タンだ
ビニール袋にまとめて
リサイクのゴミの日まで
キレイにしまっておく

蝸牛も
外へ放り捨てやる

それでいい

そうしたいから

2014/12/14 (Sun)

[192] いてはいけない子
詩人:遥 カズナ [投票][編集]















何か掴むものを
川原で
頼ろうとしている

誰かではいやだ

あなた
ただ、あなただけ
あなただけが
ただ、私だけを
なんでもよくなくて
なんでもよくなって

私があなたなのか
あなたがわたしなの

はなさないでいて

誰なの

母さん













2014/11/24 (Mon)

[191] メダカ
詩人:遥 カズナ [投票][編集]













ノートの狭間をさ迷う
メダカを見せたい

耳の奥まで水でいっぱいになると
薄くて透明な身体が透けて
心臓の鼓動に
気がつく

呼吸が小さな身体中の隅々までも躍動させ
大切な働きの繰り返しが
丸見えになる

ここでは
上も下もない
そこで
どうして
こうしてあるのか

物書きが
ありもしない
なくもない
チョロチョロと揺れる尻尾を揺らして紙面を生きる
そんな様を












2015/09/23 (Wed)

[190] 命の水
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

盲目の世界
血と金と人々の薄汚れきったプライドの蹂躙するこの地表の隅々を避けるようにして流れる
細く清らかな
せせらぎがある

文字はどこにあるべくして書かれてあるのか
指先に掴まえられたペンの先端

無垢な白紙の上を
理知と私利とあらゆる偏見にまみれた思想を避けるように
小さな小川が流れている
そこに
文字があってこそ
渇きを癒す
せせらぎがある


2015/10/24 (Sat)

[189] つがい
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

女は雪の結晶のよう
男は抜け落ちた鳥の羽のよう

もう戻らない過去は
少女が胸に抱いた花束のよう
まだ見ぬ未来は
少年の瞳に映った高い木の黄金虫のよう

僕は扉の鍵を外す
彼女は目を閉じる

台所の湯気の香りは
窓から夕暮れの玄関先へと流れだし
帰る家がある幸せを
通りすがる誰にでもやさしく教えてくれる

「ただいま」
「おかえりなさい」

守ろうとするほど失うのに諦めてしまえば、いつのまにか寄り添っていて

きどってみせても
何かを落とせば格好がつかないし
だらしなくふざけてみせても
結局はみっともなくて
わかり合う意味が
ぼやけてしまう

恋愛詩は書きたくない

君以外だったから
あきらめてこれたのかもしれない

「夕食はなに」
「揚げ出し豆腐とサラダ」
「うん、ありがとう」
「お疲れ様」
「うん」





2014/10/11 (Sat)

[188] 潜水艦
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

でんぐり返り
潜望鏡を覗く
水平線に近かい高さだったから
飛び魚だろうか
なにかがかすめた

ただの風の波しぶきか

わかりたいまま
何度も何度でも
こうてんをしては
ぜんてんして
潜望鏡を覗きこむ
へとへとになってくると
赤ちゃんみたいにきごちない体づかいになり
後で思い返せば馬鹿馬鹿しい自分の様子に執着している
そんなはずないのに
やめる事ができない

新しい海はいい

2014/09/28 (Sun)

[187] かすがい
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

亡骸は濁点の蟻に担がれ運ばれていく
パラパラマンガのように
一文字、一文字が
誰かの自由の養分にかわっていく

山羊小屋は
十分に腐りきった肥沃な肥料は
こうなるだろうとわかる臭だけにつつまれている
そこへ僕を連れこんだ彼女を
後ろから下着をずり下ろすと
丸見えなサラサラとした尻の片側がひび割れ
踏み潰されたカタツムリの内臓を覗かせていた
この手に
握り潰すようにじかに味わいたくても
戦場の死人の、見開いた眼球の速度で乾き初め
フイルムカメラのシャッター音も間にあわないくらいばらけたピーナッツの薄い皮みたいに
パリパリと剥がれ落ちて
ちらばっていった

そんなやりとりの後
剃刀で互いにの体の毛を剃り合い合い
自尊心の固め合いがはじまる

「ねえ、皆が君の事をどう思っていのか、知ってる?」

ビールを一口、そしてもう一口、口に含めば
世界一周

「僕に乾杯」

言う事はもう、なにもないよ

2014/09/28 (Sun)

[186] なりわい
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

確かな事はいつでもこの手のひらの中で感触となって分かっていて
ガサガサとした、鋳造したての硬い金属を
それこそ舌で舐めても気持ちのよい硝子鏡の表面へ近づけていく
高速で回転する工具は
気を抜けば技巧物を弾き飛ばし、目にでも当たれば失明させるだろう

学校は夏休みだ
今年は家族でカヌーに乗る予定でいる
キャンプ場にテントを張り夕暮れはバーベキューをしながら迎えたい
日がくれたらなら、花火をやる
子供達のはしゃぐ様子が目に浮かぶ

宝くじが当たるといい
マンションのローンを返済して
車も欲しいし、旅行もいい
とにかく贅沢がしたい

金属は研きあげる途中途中、持ってはいられないほど高熱になる
素早く、水桶けに突っ込み「シュゥッ…」と水蒸気があがる

確かな事は
いつもこの手中にあって
硬く、熱く、そして
そのしんどさに
実感がある

2018/12/12 (Wed)

[185] 成層圏
詩人:遥 カズナ [投票][編集]















方眼紙の青いうっすらとした線が
新しい匂いの姿をしてくれているので
空を感じられる

腰掛けに
ちゃんと座ってみると
窓から射し込む日差しに
切り落とされた指先が
影の方にある

消しゴムの粕が
鉛筆の匂いに絡まり
ポロポロと散らばっている
そんなような曇

大きな三角定規に沿って
ひこうき雲の真っ直ぐな線を
ゆっくりと
落ち着いて
引いてみた

後からに
なってしまったけれど
できるだけ
左右均等の翼になるように
しっかり折った紙飛行機を
かすかに
方眼紙の香りのする鼻先あたりから
後ろ姿を見つめながら
真っ直ぐに窓の外へと
解き放つ

本当に気持ちが良い空へ












2020/07/04 (Sat)

[184] 
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

自然に受け取れる
「神さまがそれを自分の分として、取り分けて下さっているはずだから」と、彼は話し
空洞化した心のその部分の形を思い巡らしていた

琥珀色の長い髪を
潮にくゆらせるように泳ぐ人魚が
珊瑚礁の片隅に挟まったガラス瓶を見つけた
彼女は
小指の爪を前歯で剥がしとると
それをガラス瓶の中へ差し入れ
血の滲む指先で
潮の流れにそっと放つ
夕暮れの
薄暗い海底の物語
彼女は誰かを待っている
おとぎ話の世界は狭すぎて
押し潰されそうになりながら
はだけた胸を抱きしめた

風が吹くたび
彼の想像の隙間を易々と時はすり抜け
その扉の向こう側への期待は揺らぎ
彼女を何の理由にもしたくなくなっていった
実際、彼の前にあるのはただ真っ黒なだけの小さな穴であり
何かをさし込もするほどしらじらしさが見てとれ
答えのある筈もない不確かなものに形を与えようとするような
ひとりよがりは
いよいよ薄れていった

狭く難解な構造を幾重にもおびているその穴に
彼は
やたらと「愛」だとか「権利」だとか「自由」だとか
そんな言葉をタバコの煙りみたいに吹き込みながら
結論を実感として噛みしめたがった

この
彼の登る鉄筋コンクリートの建物の階段は螺旋で
カゴ車を回しながら走るしか脳のないネズミのように何が分からないのかさえ分からない渦となり
それは別に悪い事では無かったから
分かる必要が無い事が最大の残酷な滑稽さで
誰も、どんな感情も持てなかった

チャリンチャリンとした
金属の音に敏感に反応すると
見れば、ひどく太った男の腰に不必要としか思えない数の鍵がぶら下がっていて
こちらが疑うのなら
満腹の腹を裂いて内蔵や下腹部でさえ切り落として見せ
血みどろにさらけ出された事への
こちらの笑顔を
さぞかし満足したがったっていた

彼も
いよいよ狂喜したかったが
全くでもなくとも
他人事をなんとも容認できるような内面になってゆく
はなはだ健やかに睡魔に襲われ眠りにつく頃
そんな程度の幸せが
鍵はいらなくなった理由としてしまわれた
その頃には
人魚はついに押し潰され
こまぎれになった肉のかけらは潮に漂う
小魚たちは
ついばみもしなかったがそれには
永遠の命がやどるのだと言う

2014/04/23 (Wed)
357件中 (211-220) [ << 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >> ... 36
- 詩人の部屋 -