詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
私がいないなどと
誰が貴方に伝えてしまったのか
例えば空気が見えない
からと言って
空気などありはしない
と言う者は
いないじゃろうて
幾億光年も彼方の
過去の星あかり達は
今もその星がある事の
証にはなりはしないが
確かにそれは
満天に瞬いておる
花だとてそうじゃ
知性等も在るよしも無い
それが
人のどんな疑いも貫いて
愛されようとして
美しく咲こうとする
この果てしの無く舞い散る
溶けて消えゆく他のない
雪の結晶じゃとて
一つと言えど
同じ形のものは無いのじゃ
人は か弱い
そこに必要とする人がいる限り
メリークリスマス
このまばゆい世界を
かけがえの無い
貴方の為に
、
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書籍が実はゴム風船で
それを、膨らませると
「あ、あ、こんなふうになってしまうのか」。なんて
蒸気機関で鳴っているようなオルガンの音色
三角錐の頭を尖らせて
体はサイコロの目、何立方体かの側面
か細く白い二本ずつの両の手足がしなやかに交差する
心臓の鼓動のテンポ
虫かごの中の赤い口紅
まばたきをする度に傘が開いては、閉じ
劇場でエコーする名を呼ぶ声
肩にかかった手を払いながら僕は振り返る
、
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たいがいの事が
終始、安易で脆い現実の裏打ちに根ざしていながら
その方が安堵を誘うように
小っちゃな手が握り返して来る
途方もない嘘からの回り道が
より真実に近いのなら
毎朝、鏡に映す
この顔のどこかに
確信と呼ぶにはむずがゆい
ひきつる他にない結末は
鏡返しのような
始点と終点やらや
なんて浅はかな結論ばかり見つめ続けるのだろう
笑いたい
、
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吹奏楽部で使っていたホルンを
押し入れの奥から
引きずり出した
ケースの留め金に触れ
じんわりと呼び覚まされたカビ臭い
真鍮に金色のメッキを施された
記憶と感触
取り出した
あいも変わない無骨な異性とキスをかわすように
マウスピースだけ口先にあてがい
「プー、プー」とさせて
もう片手に掴んでいた
缶ビールから水滴が
足の甲へしたたり落ち
冷たく感じた
単純で無駄のないメロディーを想う
もう、何も考える必要すらいらないまま
、
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星くらいに輝く
飛行機の灯り
ゆっくりとした
旅路を
ぼんやりと
眺めている事にすら
気づかずに
走っていたよ
形を探し
うつむき加減の記憶の頁をめくり
頬を抓ったり
その合間に
小便をしたりするさなか
きっと、これは
白いウサギが
校庭の飼育小屋
モグモグとする口元
なんだか
生きている臭い
、
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肩代わりで
渡してしまったような
かえされた手を掴んでいた仇にさえもう
恨む事に疲れてしまったよ
わけとて
もう、違う朝さ
ありんこが
ふらふらしているみたいで理由を背負わされいる地べた
だだっ広く
ふりそそぐ雨
どうでもよさげな風
洗濯物を部屋に干す
、
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男は
40年もの間
その歌を鼻歌まじりに口ずさんできた
けれど
まともに歌うことは出来ない
遠い異国の歌詞だからだ
それでもサビだけは
自然とサビだけは聞きまねて
しゃがれた声で口ずさんできた
今となってはその歌声は
彼の人生の教訓と重なり
芳醇な古酒のように味わい深いものとなっていた
からっ風に躍動する稲穂達
切なさを隅々までばらまかれたように地平線が黄金色に染めあがる
明日へ向かう夕日を追い
渡り鳥達はゆく
トラクターは勢いよく煙を吹かし
麦畑に伸びる長い影は
あの歌を鼻歌まじりで麦の穂を刈っていった
やがて
けたたましいエンジン音が小さな家の前でやむ頃には夜のとばりに順番よく星々が飾り付けられていった
男は
10年前に妻を亡くし
子供はいなかった
40年前
妻が、まだ恋人だった頃
誕生日にその歌の入ったレコードをプレゼントされた
以来
レコードが擦り切れるたびに同じものを買い求め
妻と共に何千回も
妻が去ってからは何万回も
そのレコードをかけ続けたもはや、この歌は
くゆる煙草の煙よりも
男にまとわり
馴染み
寄り添っていた
ロッキングチェアーに深く腰をおろすと
暖炉の灯りを映し出したレコード盤は艶やかに回り
男は妻の写真を傍らにウイスキーを煽る
褐色の皺を潤すように
涙が頬をたどった
男は口ずさむ
未だ意味さえ知らぬ
遠い
異国の歌詞を
、
(はじめさんとの共作)
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国道58号線の足元をくぐるほとんど人だけが行き交う小さなトンネルがある
夕刻になると入り口付近には
魚売りのオバサン達がアルミのタライに天秤で ささやかでも溌剌と客足を呼びとめ
他に花売りや 雑貨屋なんかも肩を寄せ合いながら
その日暮しの商いをしていた
トンネルの先に浮かぶ半円の眩しい向こう側は通学路でもあった
傍らには床屋があり
インシュリンを射つ為だったのであろう注射器を
店主は時折 引き出しから出して見せては
幼い私を脅かし じっとさせようとしたりした
埋め立て地の方から吹く海風が 材木屋のおがくずの香りと渦を巻き 吹き抜ける眩しい向こう側に
何か特別な確信が約束されていた訳も無い
朝夕
戦闘機の離発着は繰り返され
空を覆う爆音をくぐり
踏み躙られる事に慣れた小さな島は
そこに ただ『ある』と言う意義の他に その価値をないがしろにされていた
それは よくある国家間の政略の下
誰が駆け出しても
抜け出せける筈もない
小さなトンネルの
向こう側の話しだ…
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遠いようで
近くのように
離れて行きそうで
すれ違いそうな手触り
サラサラとした
小さく
白い
紙コップ
底へ
繋いだ
糸が
もつれないよう
ちぎれてしまわぬように
耳に
かぶせたり
口に
押し当てたり
「大変、だったな」
すかすかの
思いやりの
ちじれた毛ほどの
有り体を
足元に
見おろす
外では
風にひっくり返された
バケツの転がる音が
もう
どこかにかでも
ひっかかって
静かになっていた
、