詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
虹は
声のする
方角
ほがらかなんて
どこにでもあるような
気がしていたのに
さしだされた
つなぎたかったであろう手のひらを
握れなかった
朝顔の葉に
新鮮なつゆ玉が
幾つも、幾つもこぼれ
何も知らないみたいなツルが
笑むように揺れた
葉の裏側で
チョウチョが濡れないように
しがみついている
、
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なすべき事をなせたとき
嬉しい事は何もない
目はおよいで
褐色の頬の傷跡を夕闇にあらわにしながら
壊れては消える、海の波のリズムの呼吸がせいで
まだ、どうして良いかもわからない喉が唾をのむ
のざらしの獲物をたぐりよせるために
たずなを力いっぱい握りしめた、腫れ上がった手のひらが、じんじんと熱い
仲間と切り分けた
何一つ無駄するわけのいかない、担いだ糧を
重たいぶんが重たいだけ
十分以上の腰の痛みと
爪の垢と
食いしばる歯に
誰に関係もない
実感をこめて
男は家族を養っている
、
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逆さまのリモコン
確かな実感のこもった
ボタンを押して、暖炉を選びたいのに
炎は好きだ
互いが互いに満たされ
思わぬところで
感じた意外に
ゆっくりとした
とても大切な事が
メトロノームのリズムになる
きんこん、、、きんこん、、、
わからない事が
気持がよい
わからないという事だけが
はてしのない
理由と正しいお辞儀をかわせる
君と胸ぐらを掴み合いたい
、
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一番、気持ちの良い
朝の散歩を
洗いたての髪で
濡れたサンダルを履き
足跡のまだない
砂浜を踏む
蟹達が横目で行き交う
心のこりを
昨日へおいてきぼりに
モクマオウが風に走るような音をたてる
互いに
忘れようとしあいながら
知らずに結んでしまった
約束のような
遠い小指の感触が
跳ね返ってくる
いつもより、いつもどうりに
耳の中に小指の先を強く突っ込み、痒みがとれるまで
深く掻きまわす
しかたのない事ばかりが
ゴシゴシと思いあたる
その手で
目もともゴシゴシとやると
小指の先が臭くて
笑ってしまう
、
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水が流れていない
川の岸部にたち
ポケットに手を入れると
四角い小さな、薄い手触りのものが入っていた
街中の窓から外へ投げ捨てられた本
冷たい鍵を回し
大排気量のエンジン音を轟かせるブルトーザーの運転手達は
それらをかきあつめ
押し出すように
水のない川へ捨てていた
低い影をたらす
崩れかけたアパート
屋上では
すっかり手足の冷え切った子供達が
全てを見下ろし
しゃがみこむと
凍えそうな体を小さくまるくして抱きかかえていた
下にある
それぞれの階の一室一室では
体を穴だらけにした
眼光だけが日に日に鋭く尖っていくドン・キホーテ達が部屋中を引っ掻き回し
なにかをとにかく探していて
要らないものを
窓から投げ捨てていた
今、ここにマッチがある
「マッチ、マッチだって
時代錯誤も甚だしい
そんなセンチメンタル
教科書だって載せやしない」
どれが、どこで、どう使うのか
本人は把握しているのか
信じがたい数の鍵を腰にぶら下げた番人面が言う
でも、俺には
わずばかりのマッチしなないのだ
凍えそうな子供らと
寄り集まり、温もりを分かち合いたい
今、ここにマッチがある
足元の
水のない川には
捨てられた本が山のようにうずたかく
積み上げらていた。
、
詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
理由のないおまえよ
宇宙の微かな水の流れに跳ね上がり
銀河の渦のような可能性に巻き込まれ
やっとひらいた瞳に空を映し、瞬かせた
伝えていく事と
忘れる事をひたすらに繰り返し
生きる事を追い求め
涙に自ら潤されて
心が生まれた
命よ、おまえは
終わりのない旅を幾世代
幾年月をあゆむのか
命よ、おまえは
命である事を喜んでいるか
おまえを照らそう
その心に刺さるように
東の地の果てから
天空をたどり
西の地の果てまでも
どこまでも
おまえを照らそう
生と死が隣り合わせだとしたなら
誰がおまえを選ばないだろう
機敏な緊張が
稲穂の茎にしがみついたカマキリにしぐさを与え
黄緑色の爽やかさが駆けめぐる
その丸い二つの目に
憧れている
白昼のもとへさらけだされたまま
果てしのない問いかけを胸に、追え
命よ、おまえは自由か
kikaku2012「太陽」
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俺という人間は
自分以外を愛そうなんて事を考えてみても
疲れるだけで
めんどくさくなって
やめて
また、思い出して
忘れたふりをしていると本当に忘れてしまって
何かの拍子に
また思い出すと
また疲れて
また忘れてたふりして
眠って、起きて
新聞読んで
また思い出し
上の空のふりして
仕事に出勤して
忘れて
誰かと会話すると
また思い出して
いやになって
いやになって
疲れて
やっと帰宅して
テレビみながら
酒飲んで
ためいきついて
あきらめて
愛することにすると
楽になって
眠ると
朝になって
嘘っぽくて
やっぱり、めんどくさくなって
また最初に戻る
俺という人間は繰り返して、繰り返して、繰り返してみても
ただ、胸のところのどこかが痛いような感覚が喉元までこみあげるだけで
自分以外はどうにも愛せない
、
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ファミコンのうまい、お前を
どこか嫉妬のような
歯痒い期待で
そばに感じていた
金のない
バイトばかりの互いが
あたりまえの距離を
探し
あの頃なら我慢のできた反目も
取り返そうとするのには
あまりに遠く
軽さをおびはじて
血まみれの
下手くそな詩が
翼をさがして
腹を裂いて
お前をよんでいる
、
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防波堤からの夜釣りで海へ転落した事がある。
釣りの最中、海へ外れ落ちたウキを回収しようと、足元に置いたタモ網(※1)を探してライトのスイッチを入れた。
LEDライトは光量が非常に強く、使用直後は目がくらむ
流されていくウキに焦り
タモ網をつかみ取って防波堤の縁にそって歩いているつもりだった。
が、左足が不意におちると反射的に右足も追うようにして前へ出していた。
自然と両腕はバタバタとさせ、海へ転落していった。
溺れそうになりながら
フジツボやらがついている防波堤の壁面から必死に掴めそうな部分をまさぐり、しがみつき、転落した驚きと恐怖にパニックになりそうな自分に「落ち着け!落ち着け!」と言い聞かせていた。
それでも
暗い海面からから見上げる7メートルはある防波堤の真っ黒な壁面は絶望的な光景であった。
私は同行した仲間の名前を必死で叫んだ。
何度も呼ぶうち
本当に幸いな事に仲間はその声に気がつき、駆け付けくれた。
彼らも慌てたが
とにかく救出しようと、持ってきたタモ網を私に伸ばしてくれ
私はそれにしがみつき、そのまま彼らはテトラポットのある場所まで移動して行く事にした。
どうにか、たどり着くと
私はなんとかテトラにしがみついて海から這い上がろうとするのだが
何度も失敗し、それでも最後は死にたく無い一心で
テトラポットの上へ這い上がる事に成功した。
その後は
這うようにテトラをよじ登り
どうにか防波堤の上にたどり着いた。
手のひらや腕にはカミソリで切ったような傷が痛んだが
振り返って思うと
無数の幸運が私に味方していた。
その、どれか一つでも欠けていたら
偶然だったとしても
助かった理由を数えるときりがなく
考える程にゾッとする。
安全な釣りのために、もう少し書きたい。
まず、海難事故などあり得ない事という慢心があった。
そしてライフジャケットを着用していなかった事を後悔している。
別な反省点として
転落した人の安全を確保する為の事を最大限にしたなら、118番へ連絡したほうがよい。
こわい思いをしたが
みんなで釣りを細心の注意で楽しみたい
その価値がある趣味だと思っている。
(※1)伸縮自在(数メートル)の竿、先端に魚を回収する網の付いた道具
kikaku2012「事故」
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牛乳の入った白いマグカップの中、黄金虫がのたうっている
マグカップの中に舌を差し入れると
鈍い痛みと一緒に
棘のような足で舌にしがみついてきた黄金虫を
あま噛みするように奥歯に挟み込む
世間知らずの知る
「快楽」という文字で
この恍惚を推し量られたのだとしたら
ゆくりと後悔するがいい
その名前を逆さ読みで呼び、呼ばれている事に気がつくまで
そうしてやろう
草原に墓がある
小さな白い墓だが
たむかれる花の絶えない 風の音しかしない
静かな場所だ
紐でゆわえられた山羊がいる
ハサミで
紙みたいなものなら
何でもじょきじょき切って食わせる
面白いように食うし
実際、手持ち無沙汰だった少年には気持ちがよかった
三四人の大人達が寄り集まり
一人がハンマーを振りかざし
山羊の脳天を打つ
幾度か鈍い音がして
それでも
固い角で頭蓋骨を覆われた山羊は
気絶も出来ずに白い毛を血まみれにしながらメエメエ
と鳴き叫ぶ
別の一人が角を両の手で掴み、抱え上げると
朦朧とした山羊の喉笛を
他の誰かが鋭いカマで掻き裂いた
どっと血が吹き出し
ヨタヨタと山羊は倒れこむ
黄金虫は奥歯に挟まれながらモゾモゾとしている
今日は宴だ
大きな鍋にはバラバラにされた山羊の肉が放り込まれ
山羊汁の匂いに隣近所も詰めかける
皆、笑っている
笑っている
墓にたむかれた花を
ぐしゃぐしゃにして撒き散らす
宴には皆の湯気のたつ膳が用意されている
黄金虫をゆっくりと噛み潰すと
人の道からはずれてしまった
奈落の臭いのような香りが
鼻から抜け出ていった
少年の膳だけが手付かずにすっかりと冷めきり
誰かの名前を逆さ読みで呼ぶ声が
白い墓に吹く風の中からした
reiwa2020