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遥 カズナの部屋  〜 新着順表示 〜


[145] 笑い
詩人:遥 カズナ [投票][編集]




たいがいの事が
終始、安易で脆い現実の裏打ちに根ざしていながら
その方が安堵を誘うように
小っちゃな手が握り返して来る

途方もない嘘からの回り道が
より真実に近いのなら

毎朝、鏡に映す
この顔のどこかに
確信と呼ぶにはむずがゆい
ひきつる他にない結末は
鏡返しのような
始点と終点やらや
なんて浅はかな結論ばかり見つめ続けるのだろう

笑いたい

















2011/09/18 (Sun)

[144] 今も、ここにある
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吹奏楽部で使っていたホルンを
押し入れの奥から
引きずり出した

ケースの留め金に触れ
じんわりと呼び覚まされたカビ臭い
真鍮に金色のメッキを施された
記憶と感触

取り出した
あいも変わない無骨な異性とキスをかわすように
マウスピースだけ口先にあてがい
「プー、プー」とさせて
もう片手に掴んでいた
缶ビールから水滴が
足の甲へしたたり落ち
冷たく感じた

単純で無駄のないメロディーを想う

もう、何も考える必要すらいらないまま















2012/08/15 (Wed)

[143] 命の感触
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星くらいに輝く
飛行機の灯り
ゆっくりとした
旅路を
ぼんやりと
眺めている事にすら
気づかずに
走っていたよ

形を探し

うつむき加減の記憶の頁をめくり
頬を抓ったり
その合間に
小便をしたりするさなか

きっと、これは
白いウサギが
校庭の飼育小屋
モグモグとする口元
なんだか
生きている臭い














2010/12/02 (Thu)

[142] 雨天
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肩代わりで
渡してしまったような
かえされた手を掴んでいた仇にさえもう
恨む事に疲れてしまったよ

わけとて
もう、違う朝さ

ありんこが
ふらふらしているみたいで理由を背負わされいる地べた

だだっ広く
ふりそそぐ雨
どうでもよさげな風

洗濯物を部屋に干す














2010/11/20 (Sat)

[141] これは詩ではない(1)
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「井の中の蛙」という言葉がある

やれる事が限られているのであれば

寧ろ

その範囲に安堵して

ゆっくりとそこを泳ぎ回りたい





2010/10/11 (Mon)

[140] セツナレンサを口ずさみながら
詩人:遥 カズナ [投票][編集]



男は
40年もの間
その歌を鼻歌まじりに口ずさんできた

けれど
まともに歌うことは出来ない
遠い異国の歌詞だからだ

それでもサビだけは
自然とサビだけは聞きまねて
しゃがれた声で口ずさんできた

今となってはその歌声は
彼の人生の教訓と重なり
芳醇な古酒のように味わい深いものとなっていた

からっ風に躍動する稲穂達
切なさを隅々までばらまかれたように地平線が黄金色に染めあがる

明日へ向かう夕日を追い
渡り鳥達はゆく

トラクターは勢いよく煙を吹かし
麦畑に伸びる長い影は
あの歌を鼻歌まじりで麦の穂を刈っていった

やがて
けたたましいエンジン音が小さな家の前でやむ頃には夜のとばりに順番よく星々が飾り付けられていった

男は
10年前に妻を亡くし
子供はいなかった

40年前
妻が、まだ恋人だった頃
誕生日にその歌の入ったレコードをプレゼントされた

以来
レコードが擦り切れるたびに同じものを買い求め

妻と共に何千回も

妻が去ってからは何万回も

そのレコードをかけ続けたもはや、この歌は
くゆる煙草の煙よりも
男にまとわり
馴染み
寄り添っていた

ロッキングチェアーに深く腰をおろすと
暖炉の灯りを映し出したレコード盤は艶やかに回り
男は妻の写真を傍らにウイスキーを煽る
褐色の皺を潤すように
涙が頬をたどった

男は口ずさむ
未だ意味さえ知らぬ
遠い
異国の歌詞を














(はじめさんとの共作)

2016/04/29 (Fri)

[139] トンネル
詩人:遥 カズナ [投票][編集]


国道58号線の足元をくぐるほとんど人だけが行き交う小さなトンネルがある

夕刻になると入り口付近には
魚売りのオバサン達がアルミのタライに天秤で ささやかでも溌剌と客足を呼びとめ
他に花売りや 雑貨屋なんかも肩を寄せ合いながら
その日暮しの商いをしていた

トンネルの先に浮かぶ半円の眩しい向こう側は通学路でもあった

傍らには床屋があり
インシュリンを射つ為だったのであろう注射器を
店主は時折 引き出しから出して見せては
幼い私を脅かし じっとさせようとしたりした

埋め立て地の方から吹く海風が 材木屋のおがくずの香りと渦を巻き 吹き抜ける眩しい向こう側に
何か特別な確信が約束されていた訳も無い

朝夕
戦闘機の離発着は繰り返され
空を覆う爆音をくぐり
踏み躙られる事に慣れた小さな島は
そこに ただ『ある』と言う意義の他に その価値をないがしろにされていた

それは よくある国家間の政略の下
誰が駆け出しても
抜け出せける筈もない
小さなトンネルの
向こう側の話しだ…

2010/05/29 (Sat)

[138] 音沙汰
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遠いようで
近くのように
離れて行きそうで
すれ違いそうな手触り

サラサラとした
小さく
白い
紙コップ
底へ
繋いだ
糸が
もつれないよう
ちぎれてしまわぬように
耳に
かぶせたり
口に
押し当てたり

「大変、だったな」

すかすかの
思いやりの
ちじれた毛ほどの
有り体を
足元に
見おろす

外では
風にひっくり返された
バケツの転がる音が
もう
どこかにかでも
ひっかかって
静かになっていた














2010/05/23 (Sun)

[137] ファンタジア
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ランプの灯りに揺れる
琥珀色に映えたシミーズから
静脈を僅かに透かした
いたいけな細い両の手足が伸び出ている
肩から覗く喉元を嗅げば
未だ微かに赤子の香りすら残る甘い命の豊潤が脈打っているだろう

傍観者の生唾に赤ワインが絡み
じっとりと飲み込まれていく

どこか
昼には気にならないのに
夜になると
それ程遠くはない
けれど訪ねて行くには臆するような
そんな向こうから
少女の名を呼ぶ声がする

夕靄の中
桟橋に繋がれた小舟に
裸足のまま降り立った好奇心は
結わえられた紐をほどくとオールも持たない不安も素知らず、陸を蹴り
水面へと滑り出してしまった

やがて
ひもじさを連れためまいは
自然に眠りと手を繋ぐように
膝を両の手に抱えさせ
そして、ほどけ
うつ伏せて横たわる
少女の胸は
心臓から真っ赤な血を全身へ満遍なく送る鼓動を
船底を通し水へと伝へ
湖深くに響き渡り高鳴っていった

湖の最も深い底の方では
湖の主が
新たな王女を迎える支度を整え始め
その慈愛ぶった
道化の、絵の具臭い唇と苔まみれの前歯の下には
陰惨になめずる舌を
おとなしくさせようとしてあやす下顎が、か細く理性を保っていた

栓を抜かれた湯船の
確かなスピードで
船はゆっくりと沈み始める
滴る水滴の波紋を歪め
水面に互いを映す旅は身繕いを始める
肉体を置き去りに
生死の境目をあらわにしながら

少女の死は完全に無垢な無駄になる


















2011/03/27 (Sun)

[135] 明星
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ありきたりな話しでも良いなら
出来るだけ寝床に近い安らぎを見つけて
ここへ広げておきます

どこへ赴いても
そこが
毛布の外であろうと内であっても
自己顕示欲と勝手な達観の片隅
もうなにもかもが
どうでも良い事ばかりだけれど

まだ人の匂いのしない
冷蔵庫の音だけのする台所に
直火で煎ったコーヒー豆の香りが漂う

カーテンの隙間から射す
うすら眼の日差しが斜めに
カップへ注がれる琥珀色を
湯気でぼんやりと醸す

角砂糖が放り込まれ
遠くて涼やかな雲が水蜜桃の色彩いを呈すると
ちいさくスプーンを掻き回ぜ
カップの内側に微かに当たった音のように
雀達がようやく囀り初める

窓の鍵を外し しっかりと開いたら
冷えきった建具の感触をほぐす
温かかな陶器の掴み手がまわるい

センチメンタルな憂鬱が喉もとを通り過ぎ
吹き込んだ 草木に洗いしだかれたばかりの空気を
肺いっぱいに満たして
深い吐息をこぼせる幸せを確かめる

星座が繋いだ掌を放し堕ちて行くと
やがて四千万キロの彼方からたどり着いた
ピチャピチャと青く微笑むイルカの瞳だけが取り残された

馬鹿馬鹿かもしれないけれど
こうしてそれを仰いでいられる

この孤独で十分だ















2012/06/15 (Fri)
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