| 詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
幼稚園の頃 動物園で子象の背中に乗せられた
何か勿体のないような順番待ちの中
僕は誰かに両脇を抱え上げられると
ただ突然に空へ
ほうり投げられるように跨がされた
両手に触れたその背中は
ひび割れた皺が渇いた大地のように生温かく
その生えた毛は 痩せた土地の草のように疎らで
上から見下ろした 親や見物人達の よそよそとした期待の様子の遥か高く 遠くにある その土地…
海の向こうから連れてこられて
何が分かっていた筈も無いその子象との出会は
ぞんざいな記憶だけを僕に宛てがい
どうにも釈然としない感触は ただこの手に
今も遠く蘇るばかりだ…
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何もかも
どうでもいい位に青い空
かき氷よりも
かき氷みたいに白い雲
ジーンズの埃を叩いて
日なたに出てみたら
理由も無く
歩るき出せていた
さっき迄の自分が
ばからくて
真っ直ぐに伸びた飛行機曇で
この空を
綱渡りしてみたくなっていた
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今日は
心には何も無い
白い紙をこのペンで汚してしまうのには 勿体ないみたいだ
さっき
「日曜日に釣りはどう?」って 電話があったから
心は
いよいよ清らかだ
今日は何も書きたく無い
とても「幸せ」だ
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私を心から愛おしい気持ちにさせ
報いを必要ともせずに
恥ずかしさと情けなさに塗れながらも
それとは知らずに
私は『詩』を書いてみたいと願っていたのです…
何も有りません
ただ そこに咲いた
一輪の無駄も余裕も持たない
花が
いつの間にか
そうさせて いたのです
であるならば
何も無くとも
私の書く文字が
いつか逆に
花のように 何かが咲く事を
促してはくれないかと
夢見
また願いもするのです
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ほんの ひとときの
きらめき
笑いはじける
水しぶきと虹
肺を満たす清涼感
抑え切れないときめきが
雫に跳ねた若葉の頃
川のせせらぎ
戻らない 一瞬 一瞬
切なさに 追いつかれるよりも先に
はしゃいで飛び込んだ滝壺
日の射す
渇いた岩の上には
翼をやすめた蝶のように
色とりどりに乾されたシャツたち…
滝のほとり
あの日の僕らを映し
過ぎ去った
澄んだ清流のみなも
その 今もたゆまない
眩しさよ…
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綿津見の紺碧に潤んだ眼
その深淵より聞こえる口惜しき魂達の慟哭
最も巨大な海獣達の木管楽器の遠い音色
深海より豊潤な息吹のように沸き立ち 閃くプランクトン
轟き打ちあぐる波しぶき
目に沁る潮の霧 迎え煌めく小さな虹
回遊魚の鱗のあまねく過ぎ去る大海原
それを掠め 翼を潮風に洗いしだく海鳥達
流氷と氷山の うごめきひしめくオーロラの彼方から
碧い月の砂浜に残る海亀が辿った家路まで
太陽と月の旅立つ扉
その安らかな寝床
私を誘う綿津見の紺碧に潤んだ眼
嗚呼…海よ
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写実的な カラーの点描画の美しさで描きたかった…
日差しに ほくそ笑むヒマワリの頬は
君の頬
君が「好きだ」と言った花
明日への期待に溢れそうな笑顔
手の平を伸ばせば
落ちて行きそうな位 青く澄んだ空に
僕には予感がしていた…
眩しさが際立つ程 影の不安は色濃くなってゆく…
何度も描こうとしたのだけれど
筆を握った僕ではなく
未来を見つめる その瞳を
どうしても上手に
描けなかった…
もう二度とは描けない…
ヒマワリを見れば
君を思い出す
ヒマワリ
僕よりも
明日を愛した君
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真っ暗な
誰も知らない鍾乳洞では
幾つもの
水滴が弾ける度に
溜息の余韻が
百年も
千年も
しとしとと…折り重なり
白い
石灰質の寝床には
あまりに透明な
光りを知らない地下水が
ただ清らかに冷たく
湛えられていて
それは
青空の白い雲
夜空の碧い月
波打ち際で砕け散る泡に
何一つと言えど引けをとらず
美しく
切なさに
歯痒ささえ
残すのです
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私の成り行きを
何一つと言えど人のせいにはしまいと
この体を結ぶ紐と言う紐を
きつく締めているつもりだ
片手で水を掬って稼ぐような日々
申し訳の無い思いをよそに
妻と幼子の拙い会話は
温かな湯のように
心の背から掛けられて
私は
解きほぐされる…
お前達の為に
病気に成らぬよう
毎晩飲んでいた酒も止めた
酔って嘘塗れに塗り潰されてしまいたかったこの世界で
お前達は私の道しるべになったのだ
その道すがら
いつか
当たりまえの
普通の詩を
書いてみたい…
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残業で
深夜の帰宅
狭い台所で
弁当箱を洗う…
妻と子の小さな寝息を妨げぬように
優しく
静かに…
仕事は
明日も目の回るような忙しさになるだろう…
けれど
共働きの妻は
私の為に
夜も明け切らぬ寒い朝に
この弁当箱に慎ましく
私の好きな卵焼きやら
焼き魚やらを詰めてくれるのだ
だから
何も辛い事等無い…
疲れ切った体
温かい心で
私は
静かに
弁当箱を洗う…