詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
春の妖気に
中毒てられて
トび出す精神
引き止めようともせず
呼び停めたのは
三菱じゃないタクシー
四月に入り何人目
核心から遠ざかり
帰る路を探す人の群れ
僕等の時間を少しずつ
奪い去って落ちた
疵のない泡玉
粉々に轢き裂かれた
との
アナウンス流れ
始まる音楽
爽やかじゃない
まだ寒い現在
運転手に
行き先を告げ
静かに走りだす
烏色の暗い夜を
角を曲がれば
有り触れた欲の街
十色の輝きが
現の闇を更に
昏々と混沌とさせる
お酒や香水の匂いが
アナタ方を
夢に喩えるけれど
本物には成りませんから
誘いに乗れば
戒めばかり喰わされる
酔ってて味が
理解りませんが
繰り返す過失
加湿器の無い車内
乾いた咳を込む
涙目横目で視る
窓の外
不眠の街を通過する
私の友達の友達は
人殺しなんだよ
嬉々として語る声は
前からか天からか
適当な相槌を打って
膜を閉じる
濾して濾紙に残る
今日一日の夾雑物
スプーン小さじ一杯程度
瞼の奥
眼球の裏側へ
掃いて捨てる
山になった塵芥
凍て蠅と化し
もう少し
暖かくなったら
わんさか蛆が
産まれそう
考えただけで
総毛立つ
今だけは忘れよう
人工的に造られた
縦横無尽に拡がる溝に
轟轟と電車が疾走る
黄色い線の外側から
もうあと一歩
踏み出せない足
怯える脚が震える
回想の徐行運転
優しい欝が
血管に詰まり
他人の本心に迫る前に
自己の保身を考える
心臓苦しめ
難を逃れ
退く身体
宛先は未だ不明
退屈で陰気な
独りの時間が
何より大切だ
勿論
ウソだ
疲労感凄いのに
達成感皆無で
苛々を内に塞ぐ
耐えに耐える怒りは
何処にぶつけりゃ良い
後頭部の内側が
早くもムズ痒い
掻き毟っても届かない
此の身に衝撃を寄越せ
木っ端微塵に
粉砕されたら
飛び散る辛紅が
ネオンみたいに
艶っぽく
煌めくかなぁ
馬鹿の唱える
甘美な私利滅裂が
通用するのは
幻実の中でだけって
一つでも覚えられたら
死んでも忘れはしない