詩人:亜子 | [投票][編集] |
提灯たゆたう水槽に
朱いたのしいものを泳がせて
せっせとすくうのよ
だけど冷たいものが
胸の和紙を濡らしては
楽しいものを逃がすのよ
さざ波がまた誘う
夕闇おいかけっこ
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短いトンネルをぬけた先
晴れた空からこぼれた雨
ふとうつむいた君の
うなじに一粒がくっついて
匂いたった未練
重力のきれた
綿毛となった君は
すぎる景色を一本の風にして
葉擦れのような笑いをくりかえした
想う道を絶って
想う心をのこしたまま
君はそこで
ああ 泣いていたんだね
向日葵の一途さばかりが抜け道と
あの場所から手をひいてきたのは僕の言葉たち
雲になりはてた今
飛沫は僕にかえりきて
染みとなり
染みと残れ
そうして君と
すきとおる日向雨の
遠く虹をさがそう
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青い空にふくらむ雲
波たつ草を影がとおりすぎる時
牛はそれはひょいと吸い込んで
白黒ぶち模様に飾られる
まるで気にとめず
蝿をしっぽでふり払い
草をなめあげて
風へと忠実に乗り込んでいく
草原は素直でやわらかい
そのむこうに
空を突き刺して
意味をこじあけた
鉄塔群の針山
無言の電波は
聞いてほしいと夢中でとんでいく
鮮やかに愛すものを知っていながら
けれど僕はあの鉄の砦から
それらばかりを眺めてく
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どこかしらとまどいながら
点滅する信号の交差点を
急ぎ足でわたる途中
同じように急ぎきて
目があう一瞬のあなたを
私はわすれないだろう
この道の先
過去にまよってきた道標を
路肩においてきたモノを
さみしくおもいだす中で
同じように
あなたをおもいだすだろう
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西日をのみこんだ
2LDKの亜熱帯
そこにふりつもる
白い氷菓子
空色のかき氷器にあなたは
不透明な雲の塊をつめて
安物のそれへ
咀嚼するための
力を与えては
猛暑にすりへった
知覚過敏な
精神的な部分を
あてがうように
白いものをふらしてく
きんとしみて
現実がしびれるこの瞬間が
私にはなにより心地いい
ホントにスキだね
あなたは呆れるけど
2LDKの亜熱帯
そのようなあなたの氷菓子
それこそに私は
やっと帰りついたから
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夜を照らす月は
独り
星々は遠くからみている
闇夜に慰めとなる月を
慰めるものは何処へ
ひと時のやさしいものに
すがってはいたけれど
あなたが守っていたのは
その手にある柔肌の感触
わたしにくれたのは
夜明けの残夢と
置き去りの囁き
あの
抱かれた腕の
甘さは蛍が運んだ蜜
胸にしみて
我を忘れることもできない
誰にも気づかれない涙なら
朝陽に溶かそう
あの空の白い傷痕
有明の月とともに
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騒音と鎮まらぬ炎帝
木の下闇の冷気は微弱
他人は寄り添うのを忘れ
眩暈は止まず草いきれ
陽炎に追われ
冷えた闇へ逃げようとして
痺れた肢体から
影法師はのびた
誰に踏まれても自らは
踏めず離れず
こころを護っていた
忘れたはずの影法師は
愛すべき本質を知っている
きっと
産まれた時から叫んでた
私はここに居る
私はここに要る
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舞い落ちる花弁の
裏側が見え隠れ
それはいつも瞬きの中にひるがえり
知らない誰かの
ひたむきな心が横切った
唯の他人が
目眩のなかで変化する
先入観をはらう風に撫でられて
また少し
私の視線があがる
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ぬくもりを側に
他になにもいらない
このままでと
願う夜
そこに朝の陽が
なにもかも壊れて
辛く倒れて
もうこのままでと
願う夜
そこにも朝の陽が
知らず眠らされている私に
残酷な
慰めの光
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どこかの国の
衛星の軌道がずれたって
ねえ
ぼくらのさ
軌道はあってるかい
ひとりでいられないふたりなら
もう素敵じゃないよ
やめようよ
君とブラックホールは
まっぴらごめん
僕らは塵じゃない