詩人:高級スプーン似 | [投票][編集] |
溺れる者は
細枝をも掴む
乱れた息を整えながら
枝の先に目をやると
そこには
痩せ衰えたババアが
立っていた
骨と皮だけの腕
けれども
振り解けはしない
血走らせた眼で見下ろし
ババアは鬼の形相で云う
にげるな
にげるな
かわまではぐぞ
にげても
にげても
はてまでおうぞ
ババアに罪を脱がされる
重さの分だけ罰を受ける
気の狂うような年月を
激しい痛みの中で過ごす
死んでも
死んでも
苦しみからは逃れられぬ
百年ごとに
綿で払った巨大な石が
磨り減り
消えてなくなるよりも
永い時間
地獄を味わい
うまれかわる
蝉の声
千より短い一生を
己を戒め
人のため
次は
実を手渡せるよう
乾いた衣服を着て
細枝を掴むまで
生を全うしようか
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