詩人:浮浪霊 | [投票][編集] |
神を知らない貴方を、一体誰が信じてくれると言うの。
鬼の首をとったような僕に、彼女は明らかに戸惑ったようだった。ウーンと唸って腕を組み、瞑目したっぷり百秒も考え込むと、
貴方が私を信じてくれるさ。
そう答えた。眼を閉じたまま、薄笑いを浮かべて。
彼女はやがてうっすらと目を見開くと、衝撃を受けて立ち尽くす僕を見つけ、ただシニカルにへへ、と笑った。
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不気味で狂的な倫理を振りかざし
血の色や傷の形を詩に詠む
(妹が僕の為に誕生日の祝詩を詠ってくれる夢を見た)
殺す気で 呪う気で 敵意を込めて
祈るように 喘ぐように 詫びるように 奏でる
(月に生えた塔の頂上に立ち、まるで大地を背負い闇を担うように)
その 愉悦
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君が居なくては、生きていけない
僕を捨てるようなら、死んでやる!
(血迷って喚き立てる僕の言葉に、彼女は呆れて答えた)
馬鹿か。
お前にそんな権利は無い。
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濃霧警報発令
不気味な霧が街街を包む
得体の知れない化け物どもが皆を次々と食らってく
よく分からないUMAに頭から食われてしまうんだ
だからあたし達は窓を閉めきり、鍵を掛け、換気扇を止めカーテンを引き照明を落す
さあ、あとは一家で押し入れに縮こまりガタガタ震えるだけだ
勿論こんなのぜんぶ気休めだってことくらい分かってるけど
お隣りの川碕さんが家ごと根こそぎにされたことだって憶えているけれど
でも出来ることもせずに死んでいくのだけは嫌だから
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一昨日の金曜日、役場前広場の古傷がとうとう裂けて血を吐いたという。
それが僕らにはとても信じられなくて、隣の静紀ちゃんと申し合わすと(っていうか静紀ちゃんにそそのかされて)、自分たちの眼で確かめようと両親の厳重外出禁止令を振り切った。
町バスはもう走ってなくて、僕らは町の中心へ続く人気の無い大通りをひたすら急ぐ。
休校続きの学校の三倍も遠いそこへ、くたくたになってたどり着き、問題のそれを見て僕らは立ちすくみ、広場にだらし無く開いた巨大な口を声も無く見詰めた。
大人たちがあんなに必死に塞ごうとしてたのに。
張り巡らされた立入禁止の警告帯をくぐり抜けた先、裂けた傷口は腐って、生臭い死臭を立ち上らせている。
らしくなく無口だった静紀ちゃんは、その傷を見て遂に完全に黙ってしまった。僕は逆に恐ろしくなって喋りまくったが、彼女は強張った顔で裂け目を見詰めるばかり。
ちぎれるような音と臭いに恐れをなし逃げよう帰ろうと提案しても、静紀ちゃんは、動かない。
僕らは間もなく僕の両親に捕まった。
もうずっと以前から、様子が怪しかった。此処ももう駄目だ・・・ 父さんの声は震えていた。僕らの肩を掴んで、車に連れ込む。
父さんと母さんは僕らを叱ろうともせず、終始ただ陰鬱に黙りこくっていた。帰りに僕らは静紀ちゃんの家に寄り、そこでは静紀ちゃんのお父さんとお母さんが待っていた。
母さんは僕らがちゃんとお別れをすることにこだわって、それは僕をかえって不安にさせる。
また会えるよね、さよならを言わされた別れ際囁いても、静紀ちゃんは俯いて答えなかった。
車が、発進してしまう。
雨が降ったら、いや降る前に町を出なければ。そんな話を、帰りの車中、父さんと母さんはしていた。
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息苦しく悲しく切なく寒く寂しく恐ろしい。
人肌が恋しい。
体温を感じたい。
触れたり触れられたりしたい。
寄り添い、合さり、交わりたい。
貴方でもいい。誰でもいい。
誰かと混ざってしまいたい。
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花をちぎり口に含み、その蜜の味を確かめ、放る。
名も知らぬ花のラッパのような花弁が、ひらりはらりと舞い堕ちて、薄汚ない舗道を飾った。
綺麗。
そこに音は無かった。
全くの、無音で・・・?
馬鹿な。
目線を上げると、日本中どこにでも有りそうな当たり前の街騒が有った。車と人間の坩堝、道路わきの花壇、申し訳程度の緑。
此処は狂気と騒音に満ちた混沌そのものじゃないか。
じゃあ、さっきの音一つない空間は?
そうか
唐突に得心する
この頭の異常しな喧騒の中でも、友の声なら聞き分けられる。
ごった返す人波からも、見つけ出せる。
人は、自分にとって大切なもの以外にはこんなにも無関心になれるのか。
・・・この、通を行く人間(カボチャ)の数だけ、実は人生が有るわけだが。私にとってはそんなもの、良くて雑音に過ぎないというわけだ。
街を嘲弄し鈍く笑う一方で、私は振り返るタイミングを練る。
あなたの足音は充満するノイズさえ越えて、私の耳に届いてるよ