詩人:鈴砂 | [投票][編集] |
また来たか
剣持つ夢見人よ
冒険者よ
その土を踏むがいい
未知の呻きを聞くがいい
支配者が
隙無く貴方を見つめてる
冒険者よ
貴方の運を試しましょう
貴方の勇気を試しましょう
宝は貴方の目の前に
目指すべきは目の前に
冒険者よ
その土を踏め
守護者は貴方の血に餓えている
森の胎動を
ざわめきを感じなさい
全ては貴方を拒んでる
冒険者よ
深奥を目指すがいい
何を賭けて
何を求めるのか
今は何も語らなくていい
貴方は神域を侵した罪人
咎人よ
貴方が宝を望むなら
私は貴方の心臓をもらいましょう
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宵待ちの空に
開く紅き隻眼
闇を手招く視線
それは全てを射ぬく
邪眼さながらに
君の流す泪
我が受け継ごう
感情の激流を目覚めさせ
地を這う全てを一掃するまで
夜の淵が
終わりを宣言するその時まで
我は全てを葬り尽くす
我は滅びの使徒
月の無い夜に
全てを滅する者
我が君の願う未来なら
我は君の為に
君の願うがままに
主よ
そして君の瞳に何も映らなくなった時
何も無い世界で
君は何を見る?
我は君の為に
君の願うがままに
我は滅びの使徒
君の為に
全てを滅する者
全ては君の為に
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野原の向こう側で
君は温もりを呼んでいる
今はまだ冷たいだけの風が
暖かい指先で優しく頬をくすぐりだすまで
君はそこで待つつもりでいる
君だけが
気早にコートを脱ぎ捨てて
気長に地べたにぺたりと座り
遠くを見つめて待ち続ける
まだまだ彼は来ないだろう
その事を君は既に知っている
それを知りつつもなお
なかなか姿を見せようとしない彼が
君には何だかじれったく感じられ
ただ待っている事も限界に達し
早く来い
そう大声で叫びつつ
はたはたと君は手招きをしてみたりする
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春の再来
薔薇庭園で泣く日
庭園の薔薇は笑う
滴るブルーローズ
真っ青な海色は
今や僕の前で満開だった
全てに見せかけて
本当の色だけは見せなかった
それを知った三日前
庭園に咲かせた薔薇を
摘み取って
踏み付けて
僕は本当を探す
荊がそれを面白がり
いたずらに戯れ付いた
気付いてみれば
僕は深い傷を負っていた
傷だけ閉じて
刺はいつまでも僕の中
どうやら随分長いこと
荊に抱かれていたらしい
薔薇庭園の奥に
微かに少女が一人
顔が見えない 君は誰
春の再来
薔薇庭園で泣く日
庭園の薔薇は笑う
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紫の雪空は音も無く
星よ
今お前はこの空の
一体何処に輝いている
見上げた先にいるのなら
せめて最後にもう一度
その恩恵を見せてくれ
息すらも凍る国が
ひたすらに私を拒む
何故ここに温もりはない
その答えはきっと
降り積もった深雪の下
雪よ
記憶を灰にしてはくれまいか
すべてを冷たく焼き殺してはくれまいか
私がこの身を捧げるから
私の過去を
さぁ粉々に砕いてくれ
吹雪が夜を埋め
夜は温もりを覆う
私は全てに見限られ
朝にさえも背かれた
ならばいっそ
この雪と共に
春の名を持つ終焉まで
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庭師が指を突き刺した
肢体に沈んだ刺を刳り
指先で無数の刺が
肉に包まれぬらぬら光る
私はそれを
おもむろに頬張る
肉は溶け
剥き出しになった刺が
内蔵に喰い付いた
私の中で吹き出す血潮に比べたら
この庭園に滴った量の
何と微々たることよ
囲む荊に付着した
己が欠片を見下ろして失笑
滴る青も
滴る赤も
闇の前では澱んだ無色
別の色で塗り潰せ
赤い斑点を着飾るブルーローズ
君も私も
己が傷を喰らう者
それでいい
血は私の中でのみ
流れればよい
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ねぇ
何がいけなかったの?
私、わかんないよ
何か嫌な事とか言っちゃった?
ねぇ
黙り込まないで
ねぇ
お願い、こっちを向いて
ねぇ
お願い行かないで
行かないでよ、ねぇ
貴方の背中なんて見たくないよ
行っちゃ嫌だよ
どうして私を見てくれないの
いつもの様に
あったかい手で私の手を握ってよ
相変わらず冷たい手だなって
いつもの様にバカにしてもいいから
どうして何も言わないの?
どうして目を閉じてるの?
私の顔が気に食わないの?
ねぇ
ねぇってば
ねぇ
…何でそんなに冷たいの?
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私はこの森の中で生まれました
私はこの森の中で育ちました
私はこの森の中で生きました
そしてこれから土に還ります
私は村の人々にとって特別でした
彼等にとって最後の救いで恐怖でした
それでも彼等にとってなくてはならない存在でした
でもこれから土に還ります
私はまだ必要とされています
やらなければならない事が残っているのです
村の人々の為に
私はまだ死ねないのです
それでも私は
土に還らざるを得ないのです
私は悩みました
私がいなくては村は死ぬのです
それなのに私は死ぬのです
望まぬ多くの命を道連れに
私は土に還るというのです
私は悩んで
悩んで
苦しんだ末
また
一つの決断をしました
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そして決断をした後
一人の少女が訪れてきました
私を頼ってやってきました
彼女の事は私も知っていました
だから彼女がここへ来た理由も予測は出来ました
彼女は私が考えてた事と大体同じ事を言いました
死んだ恋人に会わせて欲しいと泣きました
それはできない
私はいつものようには断りませんでした
私は彼女を精一杯持て成しました
考え得る限りの償いをしました
そして浅い眠りの中で倖せそうに笑っていた彼女を
私はそっと台座の上に連れていったのです
私は彼女と契りを交わしました
彼女が何も知らないまま恋人の元へ逝けたと信じて
私は静かに力尽き
動かぬ彼女の上に崩れ伏し
それからしばらくは沈黙が続いたことでしょう
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また月が同じ高さで輝いた日
私は台座の上で目覚めました
私の上にはあの時のまま
一人の女性が冷たい身体を投げ出してました
私は台座の上から降り
彼女の身体を抱きしめて
いつものように
三日三晩泣きました
声を上げずに泣きました
疲れ果てて泣き止んだ私は
最後に告げました
今まで長い間ごめんなさい
ありがとう
ごめんなさい ごめんなさい
私は彼女を抱えて家を出ました
森を抜け村も通り過ぎました
私は墓場に行きました
そこに彼女の大切な人が眠っているのです
彼女がずっと昔に
必死になって会いたがった人が眠っているのです
長い間私が彼女を奪っていた事を
彼は許してはくれないのでしょう
私は摘んできた花束を捧げました
摘んだばかりなのに
先端はもう色を喪い始めてました
私は寄り添う様に眠る二人に別れを告げました
手が土で汚れて涙が拭けなかったので
私は泣いたまま真っ暗な家路につきました