詩人:八朔 | [投票][編集] |
桜の紅さと
散るというイメージが
死んじゃいそうなくらい
ぎゅっ、と心を掴む
並木道に寝転がり
周りの朱さを確かめるように
たくさんの花びらを
両手で掬う
ここは
鉄の味のする海の
メタファの海
メタファの海を
イメージの塊が、
這うように、
泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ
俺は一人の海胆なのだ
思想は世界になり
桜は水になる
水を得た魚のように
花びらをかきこんで
紅に染まって
育つ、育つ、育つ
俺は一つの樹木なのだ
樹木は円を造り
円が地球を包み
包まれた小さな無限
目を閉じた世界に
桜の花びらが
ひら、ひらと
落ちる、落ちる、落ちる
俺はひとつの世界なのだ
詩人:八朔 | [投票][編集] |
途切れちゃいけない『好き』を捨て
ナムアミダブツ、旅に出たあの人。
結局は、
伝わらない言葉。
羅列させる、
自慰行為のシグソーパズル。
世界を浮き彫りにしたかった。
わからない。
ショギョウムジョウが変わらない矛盾。
『結局は』で世界に結論が出てしまい、
否定する人は旅に出た。
この苦しみが続くようなら、
来週にでも死のう。
それを楽しみに生きよう。
部屋の椅子に、
脱力した私は、
腕をだらんと垂らすのだ。
そこで途切れるから、
腕はだらんとしつづけるのだ。
見つけてくれるかもしれない。
何も映さない瞳を、
あなたが最初に。
泣いてくれるかもしれない。
その冷たくなった私が、
私ではないことに。
それを楽しみに、
来週まで生きよう。
詩人:八朔 | [投票][編集] |
煙草を吸ってるときも
反応してくれと怒鳴る君
空の色と音楽が
頭の中で組み合わさった
一本の映画を見ているから
だから目の前にはいないよ
遠くにいるの
タバコに火をつけている時間が
必要だから、さ
ライターを取り上げないで
あと二分で感動的なラストだから
それまで黙っていて
横目で
鬼を見つけた
灰皿を投げ付けようとしたら
鬼はいなくなった
口にたまったつばを垂らして
タバコの吸い殻の日をもう一度消す
一人になったから
映画を見てられるさ、と
言い訳を呟いて
また煙の中、新しい世界を観る
詩人:八朔 | [投票][編集] |
圧迫され
僕は今、水の中
押し潰され
呼吸もできやしない
僕の内側を走る
真っ赤な鉄を溶かしたもの
その温度を誰も知らない
誰も知ろうとしない
熱いのを
熱くて 触れるのも厳しいものを
知ろうとしない
だから
ヘッドフォンの中に逃げるんだ
そこに広がる世界の中心と
自分の心の真ん中を重ねて
それでなんとか折り合いをつけてる
嗚呼
叫んでるのは誰だ
声が枯れそうなくらい
ずっと ずっと昔から
僕は此処にいる
蛇口が壊れたまま
水に沈んでる
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頭の中味が
回転して
その周りを逆回りで
クラシック音楽が回ってる
音量はでかい
おかしくなりそうなくらい でかい
CDだったら
停止ボタンが あるのに
僕は止め方を知らない
だから我慢してる
なんともないように 見える?
ううん、震えているんだよ
だから硬直してるんだ
もう ずっと僕は
歯のがちがちも鳴らない
冷たい 水の中で 外の声が聞こえない
ただ
クラシックが回ってる
まだ回ってる
止まらない
もう踊るしかなくて
踊ってる でも
いつ 終わる?
こんなシンプルで
入り組んだ気持ちは
いつ いつになったら
こめかみから
指をつっこんだ
CDに触れた
音楽は止まったけど
指でCDを触ったときの
ががががが って音が
まだ 僕の内側にある
詩人:八朔 | [投票][編集] |
私が回転した記録である
気持ちの推移や擦り切れた痕を
写真のように永遠に保存して
それらに表された
色や匂いやまろみや雫を
いかに確かに絵に描くように
ひとつの世界を各々の世界と換算して
忠実に叙情的に著すことが
私の望みなのです
絵筆は
突き詰めれば絵筆ではなく
声は
歌にさえ必要なく
追い求めたその先にあるのは
ありふれたものを
ありふれたものと言い放つことのできる
小高い丘なのです
私を描く際に必要なのは
胃とか、胆嚢とか、声帯ではなく
匂いや、肌の色や、嗜好ではなく
私の周りにありながら
私の内部に流れている
音楽のメロディなのです
それは流れ続けながらも
まさにCDのように
(あるいはそれを流すスピーカー)
絶え間無く回り続け
傷がついたときは
それは同じ部分を繰り返し
たまに隙間を縫うように
休息が入るのです
媒体を必要とする
いわゆるひとつの触媒として
言葉や声や匂いや粘土があり
私はその奥で
ひたすら静かに回り続ける
一枚のCDなのです
(音は重なり 旋律はひとつ)
ひとつの曲を終えたとき
その曲を聞いた人々が
思想や感覚や空気や
周りを包む見えないもの
(見ようと目を凝らす対象)
それらへの興味が
ほんの少しでも沸いたり
それらの形状の想像が
ほんの少しでも変われば
私はその存在に
悲しくない理由をつけることが
初めてできるのです
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なんで
ぶち壊したのかって
僕には
ねじが足りないから
ねじを
分けて欲しかったんだ
(これ以上死にたくなくて)
見たことない
どこにも売ってない
あの娘のねじを
僕に嵌め込んだら
いつ崩れるか分からない
この世界を、
永遠に、
閉じ込めることになりそうで
(一枚の写真のように)
完成させたかっただけ
本当にそれだけ
僕の世界から
あの娘というピースが
真っ赤に染まったまま
消えて
何か足りない
から
もう一度
ねじ を 手に入れるんだ
足りないままだと
僕は
完璧主義 だから
カンセイ、させなきゃ
(バラバラなのは僕ばっかり)
なんなら
あなたの
あなただけの ねじでもいいんだ
(死ぬのも僕ばっかりだ)
ねじ、ください
ねじを、分けてください
ねじが、足りないんです
詩人:八朔 | [投票][編集] |
前髪が伸びて
前が見えないから
あなたのことを考えていられる
地団駄を踏んでいることは
わかっているのに
あなたの指が
私を離してくれない
ああ
一箇所でいいから
あなたを貰ってくればよかった
そうすれば
一生あなたを愛でながら
生きていけたのに
前髪を切る勇気もなく
私は今日もひたすら
パンクした自転車を漕ぎ続ける
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愛想笑いをしながら
目の前で話してる貴方を
何回も何回も殺してる
25歳には見えない虫が
僕の体内を這ってる
35歳にはくだらない悩みが
15歳の皮膚を突き破ってる
空の色を
疑うような純粋さを
安っぽい制服の下に隠した
早く気付いてくれないと
早く逃げてくれないと
僕は
あなたをくるぶしから髪の毛まで
かじって、咀嚼して
あなたをばらばらにして
僕の世界を
壊したくなってしまう
早く気付いてくれないと
早く、逃げてくれないと
手首から
汚れを掻き出して律したい
赤い虫を掻き出したいのに
センセイに怒られる
オカーサンに泣かれる
トモダチに馬鹿にされる
だから
見えない場所で
息を潜めているよ
世界は
とっくに歪んでしまったのに
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『俯瞰』
ぎし、ぎしと
部屋が揺れる
壁を叩くのは
きもちいい
壁が壊れないことを
知ってるから
天井が
青空を覆ってる
この暗さは
僕のせいじゃない
スピーカーが作る
ノイズと大声の世界
それは確かにそこに息づく
僕と関係のないところで
空の色が綺麗に変わることを
期待して僕は
笑ったり乾いたりしながら
髪を伸ばし続ける