詩人:獏 | [投票][編集] |
しんどいね
暗闇にいるのは
人の笑顔が
いらだちを増幅する
話し声が耳に付く
つかれるね
他人を憎むのは
全部が嫌いなんじゃない
人のこととやかく言えやしない
痛みも空虚も
蔑みも嫉みも
持ってる
毎日感じてるよ
なんで
許せないんだろう
なんで
笑えないんだろう
もういいよって
気にして無いよって
軽やかに笑って
さっぱり
すっきり
終わったことだよって
無理矢理でも
流してしまえたら
土くれを飲み込んだような
胸の内を
洗い流せるのかな
苦い薬だって
飲み込んでしまえば
良く効くだろう
淋しさに
負けそうになってる
一人が嫌なのは
私なんだ
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丘を登れば
一面の草原
草の葉の隙間から
朝の光が射し込んで
丘陵が黄金色に輝き出した
吹き抜ける風は
陽光と花びらをほころばせ
野花の甘い香りを運んでくる
見渡せば
あちらこちらに飛び交う
小さな無数の蝶々
幻想の風景に
迷い込んだ私は
丘の頂きまで
一息に登る
体いっぱいに朝日を浴びるために
光をあびて
光に満たされて
指先まで
髪の一本一本にまで
敏感にふくらむ感覚
体の内側まで
血管も
臓物も
骨も
すっかり光を含んで
膨張していく
網の目のような
血管の中を巡る
血液の
一粒一粒まで
光にさらして
ふと気付くと
花畑を飛んでいた蝶が
私の体をすり抜けて
何羽もの蝶達が
次々に
血管の間や
骨の隙間を
飛び交って……
私の体は透きとおり
輝きながら
粉々に砕かれて
朝の風に乗って
舞い上がる
私で 有った
一粒が
乱反射しながら
空に吸い込まれて
一羽の
小さな蝶になっていく
幻想の中で
私は
祈りをとなえよう
この願い届くなら
どうか
無数の蝶になった
私の欠片が
その短い生命を
逃げ出すためじゃなく
ひたむきに
生きていくために
だだ
そのためだけに
羽ばたいていきますように
思い悩み
立ち止まる事など
知らぬまま
ひらりひらり
ひたすらに飛び続けて
光と 風に
とけるように
空へ
帰っていけますように
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秘密や約束事が多すぎて
眠れない
わだかまりやとまどいが多くて
話ができない
毎日 疲れすぎて
顔を見る時間もない
ブラックジョークは口にした次の瞬間から
現実に寄り添いはじめ
歯が浮くような褒め言葉は
空々しさに付き纏われ
どんな言葉もどちらかにしか思えなくなり
しゃべる事そのものが
億劫になっていく
本当に癒せる言葉なんて
どこにあるんだろう
真摯に思いやる言葉とは
どんな風に言えばいいのだろう
口から零れ出す会話
忘れ去ってしまえればどんなに
話すことが楽になるだろう
話したばかりの事も
和やかな笑いとともに
空気に溶けていくなら
人と話すのは
どれだけ楽しい事だろう
毒を含んだ言葉を使わずにいられないのは
クズレタココロのせいだろうか
ありきたりの日常の中
積もっていく小さな悲しみのせいだろうか
毒のない言葉で話せる日が
私に来るのはいつだろう
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逝ってしまった
私をおいて
私も追いかけていきたかった
思い出すたび
私の頭の中は
透明になっていくから
そのまま飛ぼうと
思うのだけど
岬から眺める
岩礁は
綺麗過ぎて
おいていけない
若すぎる命を
思い出してしまうんだ
柵に上がって
波の打ち寄せる
遥か下
波に洗われ続ける
岩礁目がけ
飛びたいのに
いつもいつも
飛びたいのに
あなたは来るなと
言う
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無くしてしまった
記憶
雲天の灰色の景色に
産まれたての白い鳥の
ハカナイ産毛みたいに
小さく
ちぎれた
雪が舞う
ゆっくり無軌道の
軌跡を描いて
舞い降りて
少しだけ白く光っては
アスファルトに
家々の屋根に
まだ裸の木々に
触れて 溶けて
たくさん抱えてた
悲しい言葉達を
吸い込んで
流れていった
やわらかな
やさしい
涙になって
ひらひら
途切れる事無く
舞って降り続いて
記憶も降っては溶けて
頭の芯の痛みだけ
残して
消えていった
名残雪
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怖かったの
とても
駆け付けてくれた
あなたに抱きしめて貰って
それでもしばらくは
目を 閉じるのが 怖かった
さっきまで
私に向かって
振り下ろされてた
キョウキ
目を閉じると思い出してしまうから
逃げ回ってた
緊迫した一秒一秒
目の前に横たわる
崩れたようにヒシャゲタ遺体
周囲の喧騒を
さえぎるように
ゆっくり背中をさするあなたの手
わたしは少しずつ
解放される
震えから
怯えから
恐怖したすべてから
それから
ゆっくり目を閉じるの
目を閉じても
もうあなたしか
見えなくなってきたから
暖かく優しい
あなたの手
見開いたまま
空を見つめてた私は
あなたの温もりに守られた安堵で
ようやく
はらはらと涙した
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私の心の中には
小さな私が住んでいて
彼女は
悪いことをすると
お日様がみんな見てるよ
と 言う
おばあちゃんに言われた
戒めの言葉で
彼女はそれをアレンジして
事あるごとに私に
繰り返し脅しのように
言い続ける
お日様は恐ろしい
空の目になってしまった
いつもいつも
空の一つの目は
私を追い掛けてきて
それはいい事なのか?
そんな事をしていいのか?
と聞くので
どこにいても
一人でいても
些細な悪口も
悪戯も
封じられてしまった
よくある子供騙しだと
気が付くまで
時間が経ちすぎて
お日様の声は
未だに私を戒め続けるから
白と黒しかない
私の天秤は
白になるため
重りを積むことを
止めようとしない
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寒い風が
鼻先を氷のように冷やして
丸めた背中ごと
包み込むように巻き上げて
凍り付いた思考と
縮こまる身体を
軽々持ち上げて星の瞬く空へ
夜の空気と同じだけ
下がった体温は
冬に溶ける絶対条件
張りつめた夜の冷気に
揺れる星達の一つになって
次第に透けていく身体
凍り付くような冷気こそが
すべて透明に夜空に同化させる
星になって見下ろす
無機質な街頭の列の下を
とぼとぼ
はぐれた一匹の犬が所在無さげに歩いている
そこにぬくもりは残っているか
心の芯まで冷たくなった
透ける瞳は
懐かしむように
流れる雲になって見つめている
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十月の日差しは柔らかで
臆病な小さな魂も
樹皮の覆いからおずおずと顔を覗かせる
もういいよ
もういいよ
ゆったりと流れる風
透明な小さな羽が
精一杯羽ばたいて
凍る季節を呼んでいる
つかの間の柔らかさ
卵を抱くのはもうすぐ
銀色に光る水面から
虹色の蒸気が揺らぐ
あたたかいね
あたたかいね
幽かに聞こえる歓喜の声
消えてしまうことなど
忘れている
儚いことなど
知らなくていい
知らなくていい
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発光する街並から
少し離れて
星空の下黒く沈む海
漁港のコンクリートが
冷たく海を拒んで
貨物列車の汽笛が
夜の波音と共鳴して
湿った静寂に響いてる
ぬらぬらと
揺らめく海面が
当てなく立ち尽くす
足元をすくい
闇に飲み込もうと
誘い続けてる
眺めているだけでよかったんです
岸に沿って慎ましく灯る
人の住まう証に縋りつきながら
夜の闇に溶けるという誘惑と
何も望まない虚脱と
海の鼓動の繰り返す潮騒と
心臓の押し出す脈の
調和を見つけだすまで
眺めていただけなんです
夜明け前にここから
何も持たず立ち去るつもりで
海蛍を探しにきたんです
見つけられたら
その仄かなあかりを
眺めているだけでよかったんです