詩人:獏 | [投票][得票][編集] |
外は日暮れて冷たい風が強く吹き抜ける
すっかり葉を散らした桜の枝先がヒョロヒョロ揺れてる
つのる虚しさと苛立ちで麻痺したココロが
木枯らしに吹かれたいと小さく疼くので
ヨタヨタつまずきながら歩いていた
腹に溜まった重りを抱えたままよろけた
瞼に浮かんだ出口は
遠かった が
たどり着いた自動ドアの向こうでは
寒空に 裸の桜の幹がすっくと立っていた
氷のような風の中 すっくと夜空を目指して伸びていた
ほんのり海の匂いがする風が髪を踊らせる
冷えた大気を吸い込むたびに 足取りは軽くなる
抱えるほどもある幹を見つめながら
ヒリヒリする寒さを身体中で感じていた
ぐいっと背を反らして
桜の幹を地面から順に見上げる
町明かりにぼやけた夜空に
くっきり浮かび上がるオリオン座が
骨だけになった細い枝先の真上に
去年と同じ姿で輝く
「あれがオリオン座だよ」と
初めて星座を教えてもらった幼い私が
星座の夜空を占める大きさに
星座が持つたくさんの物語の歴史に
理由もわからず芯から震えたあの時と
変わらない姿で輝く
また会えたね
毎年この季節に見つめてきたよ
今何してる?
まだそこから動けずにいるの?
問い掛ける言葉はそのまま返ってくる
身体の内側から
ぴぃぃいぃぃん と音が聞こえてくる
音に合わせるように歪んでいた背筋が
バキバキ鳴りながら伸びて
夜の静寂にメロディが流れだす
何も変わっちゃいないよ
でもね
また聴こえてきたこのメロディが
私の足を震えさせるから
もう一度一歩踏み出すよ
私は大きく深呼吸して
来た時とは違う足取りで
帰り道を歩きだした