詩人:リコ | [投票][編集] |
「お茶は濁して飲むに限る」と
個々の穴埋める術
画面越しでの言葉責め
物に溢れ
心に欠けた
夢の国
腫れた拳
握る絵の具からはみ出た紫
一人
青痣を隠すのに
丁度いいと
汚した手を拭けずにいた
そうね
原色は子供じみて危険な領域
けど34℃ほどの逃げ場をくれはしない
聞いて
今すやすやと
一人
兎みたいな顔して眠る貴方へ
探していた神様の視線
そしてその視線の矛先を
頭にドーナツ乗せて
彼に会うその日まで
見つけられないんだろう
嘘泣き
咽び泣き
両手で覆われた顔の真実
その見分け方すら
知らない
ビンタも御供えも
微笑で返す彼に
紫の染物を
被せられて育った
僕等
貴方は
整った顔で
弱者を装い眠る
やっぱり兎みたいに
その指の隙間に
絡ませる物が見当たらない
今すぐ眼を覚まし
私の髪をすいて
おでこにキスを
神様も眠る
こんな夜は
ストレートティーとドーナツでお話ししよう
眼と眼を合わせて
濁るほどの灰汁が
僕等にはもう無いと
繋いだら
湿った手のひらふたつ
洗わなかった僕の手
水気を増して
ふたりの手に広がる
紫の彩り
醜くとも
貴方とおそろい
一人と一人が
僕等に変わる
このまま手を繋いで
ドーナツふたつ
僕等の頭に
乗る日まで
その日まで
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最後のボタン
外して
白いブラウスが
私から開放され
夜風に踊るカーテンが
床に倒れた彼女を見下ろす
裸になった
ポンプから灰色の空気
唇から放たれ
鏡にぶつかり
延びる曇り
音色に変わらないそれは
紫の冷や汗を呼び
裸になった
ポンプから桃色の空気
唇から放たれ
貴方にぶつかり
滴る雨
掴んだブラウスが
私を睨む
痛いと言った
ごめんなさいと
呟いたら
カーテンが激しく
踊り出したから
くしゃみをした貴方
寝転びながら
見上げる夜空
金星が笑った
あと何百回
昇れば
私はそこに
帰れるの
こんなに酔いが回るのは
きっと
ブラウスに
安物ワインの染みが出来たから
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誰かが散らかした
21色の色鉛筆
足音は風になり
コロコロコロと
回り出す
誰かが侵入した
白で統一された部屋
赤くなり黒くなる
誰かはまるでペンキとハケだ
座りこんで
誰かを見上げていた
右腕だけが肉体意識から放れ
私を見てる
笑ってる
壁に突き刺さった
白い色鉛筆
誰かはそれを知ると
部屋を出ていった
けれど
誰かはすぐに部屋に戻って来た
さようならを
告げにきたのだと
その時誰かの声を
初めて聞いた
私は
こんにちはとだけ
言った
誰かはあなただ
誰かは君だ
君は私の右手の爪と指の隙間から
ヒュイと吸い込まれるように
右腕に入りこんだ
私にとっての
22人目の君は
22本目の君になる
入口がなかった
この部屋は
君が作った
扉によって
私はようやく
朝と夜を見る
その回転が
その相対が
その普遍が
その無常が
美しいと
私は知る
右腕の中で生きる君が
知っていたよと
語り出す
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あなたを忘れる事が
悪い事なのだと
白髭の彼は言う
中立的で正義を持たない彼が初めて言葉を発する
記憶温存は
電灯と蛾の距離を
測り続ける様だ
そこは
変わり続け
朽ち続ける
変わり続け
朽ち続ける
妖精に憧れる彼女が舞い放つ
痛々しい鱗粉が
光の粒と埃と解け合い
わたしの肉体を照らす
夜だった
あなたがいて
彼がいて
わたしはいない
あなたがいて
彼がいて
わたしの魂は
そこにはなかった
世界中の当然と普遍としきたりと愛を集めるとする
砂糖菓子みたいに
ひとつに固め
それを彼に食べさせる
すると彼の咳払いひとつで
今、目の前で絶えた蛾は甦り
キラキラと自身から光を放ち
美しい妖精に姿を変える
彼はそんな事は出来ないと言う
けどそんな夢を見るのだとわたしは言う
彼は笑う
わたしの魂は
彼を離れあなたを離れ
夜よりも深い闇の中にいた
電灯も暗闇も蛾も光の粒も無い
わたしは朝しか来ない場所にいた
そこは何よりも
深い闇をはらんでいた
わたしは死に絶えた蛾を拾い
手の平に乗せ、その綿密な網目状の羽と
指についた灰色の粉を見る
彼は笑みを湛えたまま
わたしを見下ろしている
わたしは笑っている彼を非情だと思う
電灯が消えた
彼の姿は一時的に見えなくなった
数匹の蛾の羽音と
完全な闇に包まれた場所に
わたしは立っている
肉体だけで無く魂も共に
暗闇は数秒で終わる
電灯がつく
再び姿を見せ
彼は笑う
わたしの足下を見ている
地べたには
わたしが手にしていた蛾の亡骸が落ちていた
彼は咳払いをひとつする
蛾は朽ちたまま
わたしの足下に横たわっている
わたしはそこを動けずにいる
電灯と蛾の距離を測り
暗闇の中に蠢く羽音を聞いている
あなたを忘れる事は出来ないのだ
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コーヒーカップの底にある都市
孤独屋の両目玉
褐色に揺れる街を見下ろす
ブレンドの香りで染み濡れた
彼の口髭が僕は好きだ
気のきいた言い回しを探して
孤独屋に向かって僕は言う
「なにもかもが多過ぎるね」
孤独屋の右腕の中に住む僕
彼を愛し彼から学び続ける
5杯目に及んだブラウンシュガー
溶けきれなかった
コーヒーカップの底
孤独屋は
僕の頭の先を使って
茶色の砂糖水の固りすくい
はみ出し物達を舐めてやる
僕はまた得意げに
言い回し
「上手く生きるより
美味く生きる方が」
ビルディングも人々も
溶けて溶けて混ざった
褐色の都市
携帯ショップの隣に置かれた
流行らない古びたジャズ喫茶
アナーキーをキーホルダーにした
若者達はガラス窓の向こう
混ざれずに
凝固した甘い無駄達を
孤独屋は
指先ですくい
丁寧に味わう
「爪が甘いよ」
僕が言う
「そうだね」
孤独屋が返す
僕はこっそり
スプーンを盗んだ
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解いた握り拳
触れたガードレール
冷たく濡れた掌
イゥンイゥンと鳴く
鉄の生物
ブラック
アイボリー
グレイ
見送り見送られ
向こう側が
傍まで来ていた
ような気がした
あの子を包んだ
向こう側へ
言葉が流れる
感情が流れる
涙が流れる
先走った
リフレインのように
誰とも繋がらずに
ただただ流れていく
何年も
婉曲だった視界
あの子以外
歪んで見えた
今更
顕微鏡で見るカビは
美しいって事を知った
常時酸っぱかった口内
今は
様々な味を知った
日常から染み入れた
変化は全身に及ぶ
行列は後進する
そして
私は私を残して
後退していく
穏便に
じっとりと
濡れた掌
しわにそって
溝を作る水分
握りしめて
握りしめた
ボールペンで
《三百円》
と書かれた
手の甲
なんだっけこれ
走り書きの日常に
笑えてきて
泣けてきた
年を取らないあの子のいる
向こう側に
見せつけた
三百円マークの握り拳
そこから見える
私のこれは
震えているのか
教えて欲しい
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少しだけ大きめの鞄から
こぼれ
床に跳ね返る
小銭の音
時間と引き換えに
わたあめの様な
人の心と
引き換えに
拾い集める動作は
鼠の様だ
まっとうではない
人の私は
いつだって
インクのかすれた
ボールペンで
下手くそに
悪あがき
泣き
笑い
うれしいと
かなしいと
さみしいと
おかしいと
悲鳴をあげていた
馬鹿と呼ばれる
私の中の人は
いつだって
消えそうで
歌う心は
鼠になった私を呼ぶ
ふわふわと
空間を彷徨う
言葉が
誰とも繋がらずに
空へ昇り
孤立していく
人の私を探しているんだ
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背景は赤
青い青年は
両腕に力を感じている
頼りないなどと
誰も言えない
連鎖の始点
肉と骨と血
電波と音楽と言葉
繋がりたくて
たまらない
寂しそうな君がいる
ガラスの中
伸び過ぎた前髪
隠れた右眼に
たった一つの
全てを隠した
僕の事だ
昇りきれず
空を徘徊したままの
僕と君との交わり
未だ記憶になれないそれは
感情のまま
切り落とされた
生け花の首みたく
違和感と焦燥感だけ
残して
腐って
腐って
いくんだろう
世界を忘れ
消え去る僕等に
頼りないなどと
誰も言うなよ
君と僕の交わりは
切り落とされた
切り花の首みたく
鮮やかな世界に
違和感だけ残して
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灰だらけの蛙
水を求めそれを得て笑う
スリッパが片足だけ脱げ落ちた
音もたてずに
マルボロが
山を造って崩れ落ちた
音もたてずに
開け放した窓からは
走り去るマシンのうなり声しか聞こえない
肌寒くなって
パーカーを羽織る
飲み物を買ってきてくれよ
聞こえない?
ああそう
君は眠っているんだった
言葉に意味を持たせるのは
僕等の
経験と想像力と好奇心
相変わらず
僕は無力だ
そして要領が悪く
計画性が無い
肌寒くなって
お湯をわかす
東京の水は
火を通してもカルキ臭い
自己陶酔をするには
全てが揃っているけれど
僕に意味をくれよ
数字以外の
言葉をくれよ
聞こえない?
ああそう
君はまだ眠っているんだった
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オイルの切れたライターみたいだ
引きだしの中に溜まっていくそれを
捨てれないでいる
夜を越すのが苦手だ
目を瞑れば
笑ってしまうほど意味のわからない夢を見る
いないはずの君が僕を見ている
助かる方法を知らされないまま朝を迎え
スライスされた空間から動けずにいる
時間だ
気の抜けたコーラを飲み干す
教科書を捨てたのは
他ならない僕だった
湿ったコンクリートに舌打ちをしても
雨は止むまで降り続ける